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January 2008

January 31, 2008

饅頭こわい@べいちょう

2008_1_31manju

先日、饅頭こわいを書きましたが、これが上方タイプになるといろいろなおまけが付くそうです。
ベタベタと付くそうです。
草原兄さんの師匠の師匠の米朝さんのと、松鶴師匠のを比べたらほとんど一緒でした。
中に出てくる狐の話は東京だと「九郎蔵狐」という独立した話になるらしいです。
又、「じょうよまんじゅう」という物が出てきて私は理解不能だったので調べたら・・・あ・・・饅頭やと・・・(笑)。
レシピもあったので、配偶者に買ってきてもらおうとしたら
「あんた、上新粉って250円位はするんよ! あんこは500円位するんよ、そんなもの本当に作る気ね!!
そこに、豚まんと一緒に暖めた酒饅頭があるけん、それば食うときっ!!・・・」
・・・と冷たく云われました・・・。
「あ、今すぐに行って来るね!〔ラブ〕」と云ってくれる若い奥さんはどこかに落ちてないでしょうか???
ちゅうか、ヒマですか?
まだ、読みますか??


   饅頭こわい・ツー


 十人寄れば気は十色てなことを言うて、皆さんそれぞれこうお顔が違うように、気性が
違いますわな。まア、違うさかい良えんで、こんだけ集まってはるお客さんが全部揃て小
便に行きとなったりしたら、そらもう騒動でっさかい。まア皆、違うんでええんやけども
ま、しかし、そういう連中が何人か集まりますと、噺の始まりになります。
△「しかし、よう集まったな」
O「集まったなあ。頼みもせんのに、どっからともなしにこう皆寄ってくるんやか、皆そ
 れぞれ気性が違うだけがおもろいなあ。好きなもんでも違うやろう」
△「そら違うわ」
O「お前はんなんか何が好きや」
△「わしの一番好きなものは言わずと知れたある、酒や」
O「男らしいてええな、ええ。一番好きなもんは、酒。ああ、気持ちがええがな。隣りは」
×「わいは、二番が酒やで」
O「なるほど、ここらがおもろいがな。こいつは一番好きなもんが酒や言うて、こいつは
 二番や。ほんなら、一番好きなもんはなんや」
×「一番好きなもんは……二番が酒や」
O「二番はわかってんのやがな。一番好きなもんたずねてんのやがな」
×「三番は」
O「誰が三番聞いてんねん。はっきり言え、一番好きなもん」
×「一番好きなもんは:…女や」
O「何をぬかしやがんねん。えらい言いにくそうにしてると思たわ。こっちは」
口「わしや、羊羹やな」
O「お前はんは甘党やったなあ。竹やん、お前はんは」
竹「まあ、わしの好きなもんというたら麺類では、ボタ餅か」
O「お前、今何を言うた」
竹「麺類では、ボタ餅やなあ」
O「ほう、あのボタ餅ちゅうやつはあれ麺類か。あれ」
竹「魚類やったか」
O「何もわかったないねやな。頼りないこと言うてるで、あの男は。ええ。お前はんの好きなもんは」
○「まあ、わしの好きなもんと言うたら、これぐらいのどんぶり鉢か」
O「けったいなもんが好きやな。どんぶり鉢食うのんかい」
○「どんぶり鉢は食えへんわいな。これぐらいのどんぶり鉢の中へ、炊きたての、まだ充
 分うめてない、熱いご飯を放り込むのやな。その上ヘポンポンポーンと、玉子を五、六
 個割って、白身をどけて、黄身だけ上へ乗せる、鯛の、こう、一番身の良えところ、ぶ
 つ切りにしてこう上へ乗せてな。で、そこへ浅草海苔の上等を火に焙って、ようもんで
 振りかける。わさびをおろしてすりこんで、濃口の醤油をパッとかけて、ガサガサガサ
 ーッとかきまわして、八杯食う」    ‘
O「化け物やがな、お前。ようあんなえげつない奴が居とおるな。ほんまに。お前はんなんか何が好きや」
甲「まあ、わたしの好きなものと言うと、おぼろ月夜か」
O「えらいこと言い出しよったな、おい、おぼろ月夜が好きか」
甲「好きやなあ。おぼろ月夜の晩に、わしが一人でフラーフラーと道を歩いてる。足にポ
 ーンと当たったもんがある。取り上げてみたら、こんな風呂敷包みやな。中を開けてみ
 ると札や銀貨やいっぱい取りまぜて、勘定してみたら三十八万六千八百円入ったあんね
 ん。で、これをこう警察へ届けとくわ。こっちの忘れてる時分に警察から呼び出しや。
 なんやしらんと思て行てみたら、この風呂敷包みの一件。落し主が知れん。拾た者の物
 お前にやる。お前はこれだけの大金を拾いながら、自分の懐へも入れずよう正直に届け
 て出た。えらい奴や。感心な奴や。見上げたもんや。あっぱれな奴や。と、せんどほめ
 てもろて、この三十八万六千八百円もらうんが好きや」
O「誰かて好きやがな、お前。ようあんなあつかましいこと言うてるで。そんな大層な話
 やないのやがな。ちょっとした食べ物では何が好きや、ちゅうねん」
甲「それやったら、らっきょうや」
O「妙なもんが好きやなぁおい、えらい違いやでおい、ええ。しかし、好きな物は大概わ
 かったが、今度はきらいなもんといこうかな。あんたは何がきらいや」
△「もう。きらいなもん言うただけで、パッとこう浮かぶのやがな。ヘビ、ヘビ」
O「アー、あんなもん、あんまり好きなもんはない」
△「もうあのニョロニョロちゅうやつかなわんねや。縄が置いてあったかて、飛び上がるねん、わしゃ」
O「しかし、いかもの食いというて、またあれを食べる奴かておるんやさかい、世間は広いわい。隣りは」
×「ナメクジやなあ」
O「ああ。こっちは」
口「カエルや」
O「えらい義理堅いなあ、お前ら。何もそない順にいかいでもええのやがな。お前はんは」
甲「わしや、ムカデがきらいや」
O「あいつもいやらしいなあ。そっちは」
乙「俺は、ゲジゲジがかなわん」
O「そっちは」
丙「デンデンムシや」
O「情けないな、おい。デンデンムシが怖いかい。お前はんは」
丁「わしやアリが怖いなあ」
O「ア、アリ。蟻みたいなもん怖いか」
丁「蟻ちゅやつ、気色悪いで、あれ。チョコ、チョコ、チョコ、チョコとこう歩いててな、
 で、こんなとこへ、こんなもんこう出てるやろ。で、こっちからもチョコ、チョコ、チ
 ョコ、チョコと歩いて、こいつをピッピッと合わして、ゴジャゴジャ、ゴジャゴジャと
 話しとおんねん。あれ、ひょっとしたらわしのこと言うてんのやないかしらんと思て」
O「ええ年して、ようそんなアホなこと言うてるなあ、お前。ほんまに、ええ。うむ、あんたは何が怖い」
○「何か怖いちゅうたかて、うちの嫁はんほど怖いもんないわ」
O「怖いなあ、あれは。他人でも怖いのやさかいなあ。そら同情するわい、そら、ウーム。
 ああ、政はん、お前はんなんか何が怖い」
政「ケツネ」
O「何」
政「ケツネ」
O「いや、はっきり言うてみいな、何か怖いねん」
政「ケーツーネー」
O「はっきり言いやがったなあ、こいつ。キツネと言え、キツネと。ケツネやて。おいあ
 んなもんが何が怖いねん」
政「狐や狸は人を化かすさかい怖いがな」
O「そんなこと言うてたら子供が笑うで、今時の若いもんが、おい。ええ、そんな」
政「お前何言うてんねん。わしにはそれだけの訳があるねん」
O「なんぞあったんかいな」
政「もうだいぶん前のこっちゃねんけどな、大和の伯母はんとこへ行たんや、ああ、だい
 ぶん田舎や。で、ちょっとプラブラしてくるわ、ちゅうたら、ああ、日が暮れこのへん
 ウロウロしたらいかんで。悪い狐が出て人を化かす、ちゅうのや。山の手のほうへ行た
 ら罠が仕掛けたある、危ないさかい近寄るなよ、とこない言うねん。フーム、今時分そ
 んなことがあるんかいなあ、と思いながら、行くなと言われたら行きたいのが人情や。
 山手のほうヘブラブラ、ブラブラとこう歩いて行たんが日が暮れ小前や。フ。と見たら
 あっちや、こっちにこんな穴が掘ったある。ははあこいつやなと思たさかいな、ええ、
 ずーっと見て歩いてたら、その罠の一つに、太いこんな尾が見えるねん。狐がかかって
 んのや。こらりっぱな狐や、こいつ殺して衿巻かなんかにしたろと思て、こう石を拾て
 きて、こうやると、中で狐が、手ェ合わして、どうぞ生命ばかりはお助けを、ちゅうねん」
O「何かい、狐がそんなこと言うたんかい」
政「言いよったんやがな。お前らみたいに悪いことする奴は、助けることならん殺してま
 う。どうぞ生命だけは助けとおくなはれ。そのかわり、あんたが生命を助けてくれたら、
 生涯見ることもでけん、珍しいものをお目にかけますとこう言う。何を見してくれる
 ねん言うたら、狐や狸は人を化かすところを他の人間には決して見せんもんやが、あん
 たにだけは特別に見せたると、こない言うのやがな。人がだまされてるところを見るち
 ゅうのはこらおもしろいさかいなあ。ええほんまかいな、だますのやなかろうな、ちゅ
 うて、こう罠をはずしてやったらそのへんの草をむしってきて、頭へ乗せたり、身体へ
 ひっつけたり、こうやってたけどな、手拍子を三つ打ってくれちゅうさかい、ヨイ、ヨ
 イ、ボンと打ったら、キリッと返って、スーツとそこへ立ったのが、年の頃なら二十四、五、六、七」
O「そんなややこしい年があるかいなお前」
政「そら色のぬけるほど白い、鼻筋の通った、眼のバッチリした、髪の艶々した、まあな
 んともかんとも言えん、ええ年増」
O「よだれ拭け、よだれを。狐の化けた女やないかい」
政「狐やとわかってるわしが思わず、ほれぼれしたなあ、ええ。見とれてしもたがな。まあ、おキッつぁん」
O「なんやいなその、おキッつぁんちゅうのは」
政「相手狐で名前がわからんがな。おキッつぁん、良え女に化けたなあ。ちょっと一ペん
  後姿見してえな、言うたら、狐が様子しやがってな。こんなとこへ手ェもってきて、
 まあ兄さんのお口のうまいこと、わたしらみたいなお多福、なんのそんな様子の良えこ
 とおますかいな。後姿見て笑おや思て。へえへ。なんぼなと笑うとおくなはれと、スー
 ッと後ろを向きよった、その情のあること。後姿も良えのやけど、悲しいかな急場の仕
 事や。帯の間から、太い尾がダラーッとこう下がってる。おキツつぁん、後姿もええけ
 ど、お前、尾が見えてるがな、尾隠すのん忘れてるでちゅうと、狐が手エでその尾をス
 ッと隠して、オー恥かし」
O「ウソをつけ、おい。狐がそんなとこでしゃれ言うたりするかいな」
政「どんなことして人だますねん。向こうから来るあの若い男、あいつをだます、とこう
 言う。ひょっと見たら、鼻の下の長そうな奴が、フラフラこっちい歩いてくる。アハッ、
 こいつがだまされよんねやなあと思て、こう見てたらな。こうその狐の女がそばへ行て、
 耳のはたでボシャ、ポシャ、ボシャ、ボシャとなんかしやべってたらと思たら、その若
 い男ウンウンと、うれしそうな顔してうなずいて、で、二人肩並べて歩きだしたんや。
 わしや見え隠れについて行くと、小さな納屋みたいなもんがある。そこへ二人がスッと
 入ったんや。わしも続けて入ったろと思たら、目の前で戸がピシャッと閉まるのやがな。
 そら、何をするねん、ちゅうのや。おい、開けといてくれたてええやないかいな。これ
 から中で狐の女と、この男とがどういうことになるか、一番おもしろいところ、どっか
 のぞくとこはないかいなあと探すと、こんな節穴があいてる。そこから白い指が出てき
 て、チョイ、チョイ、チョイと招いてスッとひっこんだ。ここからのぞけというなぞや
 と思たさかいな、そこへ目を当てごうて、中の様子をばジィーッとのぞき込んだ」
O「中、どんな具合や」
政「真っ暗や」
O「お前、まだ日が暮れ小前」
政「さあ、外はまだうす明かい。なんでこない暗いんやろなあと、こう見るのやが、真っ
 暗。ジィーッと見てると、頭の上からフワーッとなんや妙なもんが下がってくるさかい、
 こいつをこう払いのけといて、ジィーッとのぞくのじゃが、ただモヤモヤ、モヤモヤし
 てて、プーンと妙な臭いがする」
O「それ、なんや」
政「さあ、なんやしらんと思うて、ジィーッと見るのじゃが、真っ暗や。またフワーッと
 なんやかかってくるさかい、こいつを払いのけといてのぞくのじゃが、ただ、モヤモヤ、
 モヤモヤしてて、プーンと臭い」
O「おかしやないかいな」
政「そう、おかしいと思うてジィーッと見るのじゃが真っ暗。またフワーッと、なんやか
 かってくる、払いのけといてのぞいても、ただモヤモヤ、モヤモヤしてて、プーンとけ
 ったいなかざ(香)がする」
O「それいったいどないなるん」
政「どないなるのやしらんと思うて、ジーッとのぞいてると、後ろから、これ何してんね
 ん危ないがな。ボーンと背中どつかれて、フッと気がついたら、わい馬の尻の穴のぞいてた」
O「ほな、お前がだまされてるのや、それやったら」
政「それから、ケツネが怖うて」
O「ようそんな阿呆なこと言うてるで、お前。ええ。阿呆らしていかんな、こいつの話は」
爺「若い者が寄って何を騒いでるのじや」
O「おお。親爺さん、まあまあこっちいお入り。いいやいな、今、この政はんが狐にだま
 された話して、皆寄って笑てまんねや。まあまあこっちい上がっとおくなはれ。いいえ
 えな、怖いもんのたずね合いから、こういうことになったんでやすが、そうそう、怖い
 もんというたら親爺さん、あんたは、怖いもんはこの世に何一つないちゅて、常から威
 張ってなはるお人でんなあ」
爺「何をぬかしてけつかんねん、おい。人間は万物の霊長ということがあるぞ。あれが怖
 いの、これが怖いの、情けないことを言うな。はばかりながらこのわしはギャッと生ま
 れてからこのかた、怖いと思たことは一ペんもないわい」
O「そうやそうで、強いお方やちゅうことは聞いてまんのやけど。こんだけ長いこと生き
 てなはんねや、一ぺんぐらい怖いと思たことおまっしゃろがな」
爺「そういうと、あらもう四年前の夏か」
O「なんぞおましたか」
爺「死んだ婆が、まだ生きてたがな、あれが鍋にいっぱい糊をたいて、あの糊をみなつけ
 て浴衣洗濯しやがった。あれ着た時はこわかった」
O「そら、こわさが違うがな、おい。年寄りはこれやさかいいややで、ほんまに。ほんま
 にあんた怖いと思たことおまへんのんかい」
爺「ほんまのことを言うとな、実は、後にも先にも、たった一ペんだけ、心から、底から、
 冷汗流して、ああ、怖いと思たことがあったなあ」
O「親爺さん、あんたが怖いと思うのやったら、そらよっぼどに怖いことでっしゃろなあ、
 どうです。その話、みんなに聞かしてもらえまへんやろか」
爺「ええ。そらまあ聞かしてやってもええが、お前らこの話終いまで、怖がらんとよう聞
 くかい。」
O「さあ、話ぐらい聞きますわいな」
爺「途中で怖いさかいやめてくれえ、と言うても、やめんぞ。よしっ、ほんならまあ言う
 てやるがな。なんし、あれはわしが二十二ぐらいの時やったかなあ」
O「よーっぽど前のこっちゃな」
爺「だいぷに古いこっちゃ。その時分わいの伯父貴というのが、南農人橋、御払い筋をち
 ょっと入ったところに住んでたんや。仕事の帰りに遅うにそこを通りかかったんで、お
 っさんまだ起きてなはるか、と寄ってみると、伯父貴これから寝酒を飲んで寝ようちゅ
 うとこや。おう、ええとこへ来た、まあ上がれ。世間話をしなから酒の相手してるうち
 に、だいぶに夜が更けてきた。もう帰ります。泊まって帰れと言うのを、あしたの仕事
 の都合があるさかい、と振り切って外へ出たがもうかれこれ一時、雲が低うにたれこめ
 て、陰気な晩じゃったな。スタスタ、スタスタ、スタスタと道をとって、農人橋を今渡
 ろうとして、ヒョイと見ると、橋の真ン中に、若い女が二人、ズホーッと立ってるやないかい」
O「……真夜中に若い女ちゅのは気色の悪いもんでっせ」
爺「そうや。本町の曲りから、あのへんへかけて昼日中でもあんまり気色のええとこやな
 かった。この夜中に若い女が一人で来るような所やない。何をしてんのやろうとこう見
 ると、落ちてる石を拾うては、この袂へ入れてる。こいつ身投げや。お前ら教えといた
 るけどな。身投げを助ける時に、待ったあ、てなこと言うたらあかんで。どないしょう
 と思案してる奴までが、その声合図に飛び込んでしまうのやさかい、必ず声をかけたら
 いかん。その話を聞いてたさかい、わしゃ、黙ってバラバラバラとそばへ寄って、ガッ
 と抱かまえてから、これ待ちんか、なんちゅうことすんねん。どこのどなたか存じませ
 ぬが死なねばならぬわけのある身体でございます。どうぞ助けると思うて、殺して下さ
 れ。医者の診断違いやあろまいし、助けると思て殺したりできるかい、なあ。いずれ死
 なねばならんわけがあるんやろうけど、一ぺんそのわけというのを聞かしてみい。話を
 聞いた上で、なるほどこらどうでも死なんならんなあと思たら、お前が若い女で、死に
 ぞこのうたら、わしが手にかけてでも殺してやろう。そのかわり、万が一つにでも助か
 る工夫があるのやったら、なんぼでも相談に乗ろやないかと、かんで含めるように言う
 のじゃが、死神がついたというのか、ただサメザメと泣いて、死にたい死にたいの一点
 ぱり。今のわしなら、どつき倒してでも引っぱって帰ってくるで。何分にも年が若いわ
 い、ムカッときた。何かい、赤の他人がこれぐらい言うてやるのに、その親切も無にし
 て、おのれ勝手に死のうちゅうのんか。ええ、死にさらせ、どめんた。ダーンとつくと
 欄干に頭ぶち当てて、ガツン。ヒーッ。ざま見されちゅやっちゃ。後をも見ずにタッタ
 ッタッタッ、今、橋を渡り切ろうとした時に後ろのほうで、ドブーンという水音。……
 ええ、さいぜん手に抱きとめた、その暖もりがまだここに残ってるやつが、ちょっと親
 切が足らなんだばっかりに仏になったか。あァー、南無阿弥陀仏……思わず念仏が出た
 で。いやな晩じゃ、早よ帰って寝ましょうと、足を早めて南へ、南へとってくると、ポ
 ツリポツリと、雨が降りだした。川岸の柳が風を受けて、ザワー、ザワー。ああー、い
 やな晩になった。早よう帰ろうと急いで行くと、後ろのほうからなんじゃ濡れわらじで
 でも歩くような足音がジタジタ、ジタ、ジタ……と」
O「なんや、親爺さんそら」
爺「なんやわからん。そうなると後ろを振り向いて見ることはでけんもんやで、急ぎ足で
 スタスタスタスタと行くと、後ろの足音かジタジタジタジタジタジタ。立ちどまると、
 ピタッと止まる。歩きだすと、また、ジタ、ジタ、ジタ」
O「ほんに親爺さん、この話ちいと怖いなあ、これは。皆、逃げたらあかんで、居ててや。
 そばに。わしのそばにずっと居ててや。ほいでそれからどないしたんや」
爺「そうなると気になって、もう、どうしてこの足音から逃げようかちゅうことやが、そ
 うなると振り返ることはでけんで。なんとかと思うて、ヒョイと見たら、お堂があって。
 その前に賽銭箱が一つ置いたあんねん。ここやと思たさかいタッ、タッ、タッ、タッ、
 急ぎ足で、サーとそのかげへ隠れた。後ろの足音はそれに気づかずに、ジタジタジタジ
 タジタジタ……誰がつけて来やがったんやろうと、こう、のぞいてみると、前へ行く一
 つの影。フラフラ、フラフラ、フラ………安堂寺町の角、往来安全と書いた石灯籠。そ
 のあかりのところまで来て、見失のうたなあという顔で、キョロ、キョロ、ヒョイと振
 り向いたのが、灯龍のあかりをうけてまともに見えた。最前の女や。ええ。欄干で当た
 った時の傷とみえて、これからこれが、むごたらしゅう割れて血みどろ、見当の違うた
 眼でヒョッと賽銭箱に目をつけると、ヒョロヒョロ、ヒョロヒョロと戻ってくるなり、
 賽銭箱の角へ、こう手をかけて、身体をヌーッ……さっき、助けてやろうとおっしやっ
 たお方へなあ」
O「ああ、怖。ああ、怖。親爺さん、なんちゅう顔して、声出しなはんねん。アアーハハ
 ハー、もうこんな話聞いたら、とても今晩手水ヘ一人でよう行かんで、わしや、おまる抱いて寝る」
△「アホなこと言うのやないがな」
O「あんた、どないしたんや」
爺「わしゃ、パッと女の前へ飛び出した」
O「あんた飛び出したん」
爺「飛び出した。もうそこまで行たら怖いこともなんともないで、かえって度胸がすわる
 もんや。パーツと飛び出した。いかにも最前助けてやろうと言うたんはこのわしや。助
 けてやろうと思う親切があればこそ、赤の他人があれぐらいに言うてやったんやないか
 い。その言うことも聞かんと、おのれ、勝手に飛び込みさらしたんや。定めて死に損な
 いやがったんやろ、いかにも最前の約束通り、わしが手にかけて殺してやる。さあ、こ
 っちへ来い。髪の毛を手につかんで、ズルズルズルーと橋の真ン中まで引っぱってきた。
 さあ女よう見いよ、これが音に名高い東横堀、二、三日前からの雨で、少々濁ってるか
 はしらんが、末期の水は食らいしだいじゃと言うなり、女の身体を目よりも高く差し上
 げて、川の真ン中めがけて、ザブーン」
O「うわア、放り込んだか」
爺「わいがはまった」
O「……いや、親爺さん、あ、あ、あんたがはまったんか」
爺「はまったんじゃがな。拍子の悪い、橋のドに船が一そうつないだある。その船の角で
 頭、いやちゅうほどぶつけた。はずみというものは恐ろしいな。目ェからバチバチーと
 火が出たで。……その火で足やけどして、熱いの、熱ないの、熱いーという自分の声で
 フッと目がさめたんやが、気ィつけえ、やぐら炬燵は危ないぞ」
O「……親爺さん、あんた夢の話するんならなあ、これは夢や、と先に断わっときなはれ。
 みんな顔色変えて聞いてるがな。長い夢やな。あれ、今のんみな夢か、あれ」
爺「いや、ちょっとほんまのところもあるのや」
O「さあ、そうなるとややこしいがな。どのへんが夢で、どのへんがほんまだんねん」
爺「川へ飛び込んで、ずぷ濡れになったと思たら、わい、寝小便たれしてたん」
O「もう、そんな阿呆なこと言うてんのやないで、もう。年寄りはこれやさかい、いやや、
 もう。あんじょう皆寄ってなぶられてもたんやがな。……おお、光つぁん、あんた居て
 たんやがな。ちょっとこっちい出とおいで。ほんまに、いっつもこの人はな、人の後ろ
 で、ニヤニヤ、ニヤニヤ笑うて人の話を聞いて、エヘッ、おのれだけ賢そうな顔して笑
 てるねん。こっちい出とおいでちゅうのや。光つぁん、みんなで好きなもんや、きらい
 なもんや言うてるのに、あんただけ聞かなんだ。あんた怖いもんなんだんねん。あんた。なんだんね」
光「別に、もう、怖いもんちゅうて、もう、あの」
O「いや、いや、別に……て。みんな言うてんのや、なんかおまっしやろがな。人間一つ
 ぐらい怖いもんあるはずやで」
光「いや、それ。……そら無いことはないんですけどな。も、もう、堪忍しとおくなはれ」
O「いや、堪忍しとおくなはれて、あんた人に言うたら困るようなもんでもおまへんやろ
 がな。何が怖いねん、それ言うてみ」
光「いや、そらあることはあるんでんねやけどな。これが怖いと言うて、口に出して言うのんも、怖い」
O「だいぶ怖いのやなあ、これは。へえー、そうなるとよけい聞きたいがな。いったい何
 でんねん、あんたが、それぐらい口に出して言うのも怖いというのは」
光「実は……面目ない話でんのやけどな、あの、お、お、お饅が怖いん」
O「お饅、お饅というたら、大阪でお饅ちゅうたら、饅頭のこってっせ。食べる饅頭、お
 菓子の。あれが怖いのん。ええ。いや饅頭ちゅうたら、たいがい、こう丸い格好してて、
 それこうポカッと割ったら中に餡が」
光「エーッ。殺生や。アッハッハー饅頭ということ聞いただけでも身体が震えるのに、丸
 い格好して、ポカッと……中に餡、ウワァ……こらいかんわ、震えが出てきた。えらい
 すんまへん。ちょっとどなたもお先ィ、さいなら。失礼します、ごめん」
O「……世の中にはけったいな奴がおるなあ、おい。鰻頭の話したらあいつ顔色変えて逃
 げて去んだで。こんなことて、あるもんやろか」
甲「そらある」
O「あるかア」
甲「ある。世間には虫が好かんちゅうことがあるがな。ええ、ああ、黄色いもの見たらゾ
 ッとする人があったりやな、カボチャ見たら体が震える人かてあるんやがな。そらあ、
 虫が好かんちゅうものはあるんやで。徳川家康なんてのは、あんなえらい大将でも、ク
 モを見たら足がすくんで、身体が前へ出なんだちゅうねん。お前、胞衣ちゅうもん知ってるか」
O「なんや、ヨナて」
甲「人間が、オギャアと生まれる時に、お母はんの身体から一緒に出てくるもんや、なァ。
 今は、そんなことせえへんで、そやけど昔はあれは庭へ埋めて、その上を親が一ペん足
 で踏んだんや。なんでかちゅうたら、あの、ヨナを埋めた上を一番最初に通ったものを、
 一生怖がる。親を怖がるように、親が皆それを踏んどいたんやな。ところがまあ、徳川
 家康や皆、親が踏もうと思う前に、クモがシューッと通りよったに違いない」
O「ほいでクモを怖がるのかいな」
甲「そうや、ヘピの怖いちゅう奴は、親が踏む前にヘビがチョロチョロチョロチョロとこ
 う行きよったんや」
O「ほな、饅頭ちゅうのはどういうわけやねん、饅頭ちゅうのは」
甲「いやそれはその、饅頭持った子供が立っててやな。親が踏む前にコロッと落として、
 コロコロコロと、その饅頭が先ィ通りよったんやろなあ」
O「へえ、おかしなことがあるもんやな。そやけども饅頭の話を聞いて、顔色を変えて
 ……どや、皆おもろいもん見せよか、今から」
△「なんや、おもろいもんて」
O「あの光つぁんちゅう男、常から高慢な奴やであれ。人がみんな、ワアワア、ワアワア、
 なあ、アホな話してても、いっつもみんなの後ろのほうから、ニタニタニタニタ、黙っ
 て笑て、こいつら皆、アホかいなあてな顔しとおるやろ、あれ。あの餓鬼ムカついてし
 やあないことがちょいちょいあるねや。ほいで、いつでも何か取り澄ましてけつかる。
 そやさかいこれからなあ、光つぁんとこへ皆饅頭を買うて行こ。ぎょうさん買うて持っ
 て行くねん。ほいでお見舞いに来ました言うて、あいつの部屋の中へ饅頭をポーンと、
 放り込むねん、ええ。向こうの家一方口で裏口あれへんさかい逃げることでけへん。
 入口から饅頭をパー、パー。キャアーちゅいよるわ、光つぁん、それ、怖い饅頭が飛ん
 でくる。饅頭のまの字、格好の説明しても震える奴が、ほんまもんが飛んでくるのや。
 キャー、バタバタ。キャー、バタバタ。光つぁん、お見舞い。パー、パー、パー。キャ
 ー、バタバタ、キャーバタバタと、もがき苦しむところを見て楽しむちゅうのん、どや」
△「おもろい、おもろい。これやろ、やろやろ」
O「ようしっ。ほな、皆てんでに手分けして饅頭を買うといでや。光つぁんにバカにされ
 んように、これが饅頭の中の饅頭ちゅうような上等買うてこいよ。安物買うてきて恥か
 くな。ええかどんどん、どんどん良えのん買うてこい」
△「よっしや、わかった、わかった」
O「そうと決まったらな、おれが一番に行て………えヽ乙、もう買うてきた、気の早い奴が
 おるで、おい、ええ。ああ、米やん、お前、いつも銭出さん男が、光つぁんいじめる言
 うたら一番に出してきよったがな。何買うてきたんや」
米「見てみい、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)や」
O「うわァ、はりこんできよったな。隣りは」
口「太鼓饅頭や」
O「うむ、そっちは」
×「おれは三笠や」
O「なるほど、そっちは」
○「金つば」
O「うわァ。エー、ふくさに、へそ饅頭に、田舎饅頭に、そば饅頭に、うわァ、ぎょうさ
 ん買うてきたな。ようし、よし、これぐらいあったらええわ。皆ほんなら手分けして持
 って行け、持って行け、なあ、ええ。こんなもんお前、これからなあ、こういうものを
 見たらもう、芝居やら映画てな、阿呆らしいもん見られへんで、そら。そんなもん、な
 んぽおもろい言うたかて、役者が演っとおるやつや。今日のは正味やさかいな、これは。
 あァ、芝居やあれへん。パーと放り込んだら、キャー、バタバタ。パーと放り込んだら、
 キャー、バタバタちゅう……静かにしいや。光つぁんの家のそばまで来たで。ちょっと
 わしが様子をうかがうさかい……光つぁん、どんな具合でやす、お塩梅は。みんな心配
 して見舞いに来ましたんやがな。どんな具合です」
光「へえっ。えらいすんまへなんだ。おかげさんで震えだけは止まったような具合で」
O「ああ、さよか。おかげさんで震えだけは止まったやて、また改めて震いなおさんなん
 のん知りよれへん。あんさんに、お見舞いちゅうのが来てまんねや、へえ。ぜひお会い
 したいちゅうてな、へえ。じょうよう屋のお鏝さんちゅうて、別嬪さんだっせえ。色の
 白いポチャポチャーとした:…入ってもらいまひょか、エヘッ、入ってもらいまっせ、
 そーれ、行け。そーれ放り込め、放り込め」
△「ウワー」
O「キャー、バタバタ。キャーバタバタ。キャーバタバタ」
△「……お前かキャーバタバタ言うてどないすんねん」
O「あれ、わいか」
△「わいかやあれへんかな。光つぁんが、キャー、バタバタ言うというんでみな買うてき
 たんやないかいな。光つぁんのほうはシーンとしたあるかな、……何もお前のキャー、
 バタバタ聞くために、皆銭出してるのやあれへんねん。キャーもバタバタも何もあれへ
 んやないかい。どないしてくれるねん、これ」
O「わいに怒ったかて知るかい、そんなもん。わいかてこんなこと始終やってるのやあれ
 へんがな、生まれて初めてやがな。多分、こうやったら、こうなるんやろうと思て、や
 ったんやけど、ちょっと静かすぎるな、それにしたかて……(のぞく)」
△「どんな様子や」
O「……光つぁん死んだ」
△「何」
O「光つぁん死んだ」
△「死ぬか」
O「死ないでェ。饅頭のまの字を聞いても身体が震えるんやで。安心しきってパッと顔上
 げたところへ、パッ、パッ、パッ、パッ、パパーと、五、六十饅頭が飛んできたんや。
 アッと言うたがこの世の別れ。キャーもバタバタもなんにもなし、びっくり死にちゅう
 やっちや。ああ、皆ちょっとちょっと、逃げたらあかん、逃げたらあかんで、一人も逃
 がすな、こうなったらかかわり合いやさかいなあ、おい。逃がすな、誰も逃がしたらあ
 かんぞ、こら、もう。こうなったらみんな関係者や。急くな、あわてな。しゃあないが
 な、もうここまできてもたんや。あきらめなしゃあない。ジタバタすなっ。覚悟は決め
 い。人間やっぱり、こういう時の覚悟の据えかたちゅうやつが大事やぞ」
△「どないなる」
O「どないなるちゅうたかて、お前こんなとこで光つぁん、びっくり死にで死んでんのや。
 近所が放っとくかい。騒ぎだすがな、どうなったんやろちゅうわけや。世話やきちゅう
 のが居るねん、どこの町内にも。ワアーと警察へ言いに行ったりしよるかな。さあ、飛
 んで来よるで。巡査が来る、刑事が来る、警察医が来る、署長が来る」
△「署長まで来るか」
O「来いでかい。これだけの事件やぞ、お前。『世界犯罪史上、類例のない怪事件』新聞
 記者が来て、なんやちょっちょっちょっちょーと書いてると思たら、これが明日の新聞
 に載るぞ」
△「新聞に出るか、わいらのことが」
O「喜んでんねやあれへん、アホ。ただの出かたやないのやがな、こんなもん」
△「ど、ど、どない言うて書きよるやろ」
O「どない言うて書きよるて、そんなもん大見出しやな。四段抜きぐらいで。大きい活字
 で鰻頭殺人事件。……友達凶暴して」
△「共諜か」
O「共謀やな。共諜とくると罪が重いぞ。情に憎まれるさかいなあ。友達共謀して佐藤
 光太郎なる者を、饅頭にて、あん殺す……殺した奴もあんつくならヽ殺されたやつも
 また、あんつく」
△「そこでみんなが、あずき色の着物(べべ)着る」
O「喜んでんねやあれへんがな。アホ」
 みな真っ青になった。
光「……アッハッハァー。思た通りになりやがったな、これ。あの連中のこっちや、わし
 が饅頭きらいや言うたら買うてきよるやろと思たら、きっちりかかりやがった。わしゃ
 また酒は飲めんが、甘いもん、目がないのや。これで当分買わいでもええで、これは。
 ああ、ありがたい。エー、うまそうやなあ、食べたいなあ。今食べたら怒りよるやろな。
 辛抱でけんな、これ。やってこましたろ。高砂屋の薯蕷やで。竹の皮の座ぶとん敷いた
 ある。嘘かほんまか知らんけど、黄楊の小枝で炊いたあるという、土用の最中、二十日
 おいても餡の味が変わらん。久しぶりやなァ、ごきげんさん。アハッ……ウム……銭は
 タダ取らん……ウム………ウーム…こら……太鼓饅頭……これは亀沢のふくさやて、ウ
 フッ、娘はんの喜ぶやっちや。ウン、ウム、……けし餅:……こら粒あんやなあ、ああ
 ー。ウーム、ウーム、橘屋のへそ。小っちょなったなあ、アハッ」
△「ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと……なんやおかしい具合やで。なんや」
O「何がいな」
△「なんや、ボシャ、ボシャ、ボシャ、ボシャしゃべる声と、ムシャムシャもの食べてる
 ような音が聞こえるのやが」
O「そんなことあるかい。光つぁんやもめやないかい。それがびっくり死にで死んでんねや」
△「そうかてなんや音がするさかい不思議やがな。ちょっ、ちょっ、ちょっと。ちょっと
 (のぞく)……アアッ。アアッ、アア」
O「カラスやがな。どないしたんや」
△「光つぁん饅頭食てる」
O「何」
△「光つぁん、饅頭食べてる」
O「そんな………まただまされたんやがな。ま、そんなアホ、こんなこっちゃないかと思
 てたんや。人をバカにしやがってほんまに……もうし、光つぁん」
光「ウッ。……ああー、もうちょっとで鰻頭と心中するとこ、……どなたはんもただいま
 は、おおけごっつぉはんで」
O「何を言いなはんねや、あんた。あんたが饅頭が怖いちゅうさかい、皆買うてきたんや
 がな、びっくりさそと思て。あんたのほんまに怖いのはなんでんね」

光「今度は、あつーいお茶が怖い」

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January 30, 2008

スタジオパーク。

2008_1_30gyoza

先週の土曜スタジオパークのゲストは小草若と四草でした。
小草若の趣味は釣り。
四草の趣味はバイクでした。
今日のスタジオパークのゲストは草原兄さんです。
収録をしたと言うことは彼のブログで見ましたが放送日が分かりませんでした。
しかしこの草原兄さん、土曜日のお昼にラジオで酢豆腐(ちりちてちん)を演じたらしいです。
分かっていれば録音したのですが、ブログにその記事が出たのは放送直前。
もう少し早めに告知してもらわないと無理。。。
もう古典落語は滅多なことでは流れません。

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January 29, 2008

饅頭こわい@しんしょう

原典は中国の明時代に編纂された『五雑組』、あるいは『笑府』などに載っている小咄だとか。
  【中国版】
 「饅頭の好きな貧乏書生が、ある日のこと饅頭屋の店先で
急に倒れてしまったので、店の主人が聞いてみると、饅頭
恐怖症だという。そこで店の主人はふと悪戯気を起こして、
書生を自分の店の部屋に寝かせて、饅頭を山と枕許に置い
た。そして部屋の中の様子をうかがっていると、書生はた
ちまち饅頭を食べ尽くしてしまったので、怒った主人が、
本当は何が怖いのかと聞くと、書生いわく――『今度は濃
い茶が怖い』……」

あまりにも有名な落語なので載せなくても良いかと思ったのですが・・・。


  饅頭こわい


 ェェ人として、いろいろ好き嫌い、気の変わってるのがありますな。
「一杯、ちょッと召し上がる?」
 といっても、俺はこういうもんで飲みたいとか、いろいろあるン……。
「どういうもんがいい、お前、一杯飲むのァ?」
「刺身だ」
「あァいいな、刺身なんざ」
「お前はなァに?」
「俺は吸い物がいいな、うん」
「(下手へ)お前は?」
「天麩羅」
「え?」
「(大声で)天麩羅ッ」
「唾が跳ね返ンねェ、お前のは、え? もっと唾の跳ね返らねえようにいえねえか?」
「じゃァ(気の抜けた声で)てェんふゥら」
「腹が減ってるようじゃねえか……」
 みィんなそのゥ、その人の気でございまして……。
「まァなんだねェ、人間てやつはそう、好きだとか嫌いだとかってのァあるなァ」
「あるッたってお前……それァ腹ン中に虫がいてな」
「うん」
「虫がつまり、嫌うんだぞ」
 「ふゥん」
 「自分は嫌わねえんだ。虫が嫌うと、虫と一緒に、ェェ嫌ッちゃうんだな。『あいつは虫が好かねえ
野郎だ』なんてことになるんだ。それは『虫が知らせる』ッてえのよ。そういうことになってんだよ」
 「ふゥん」
 「だから好き嫌いッてものはあらァなァ。え? 犬の好きな人オ見ろよ。え? こうッお前、高ェ銭
を出してお前、いろんな犬があッだろう、この頃、え? こう耳の長ェ犬だのな、そいから体中ゥ糸
ッ屑みてえな犬がいるなア。あれェほどくと、犬がなくなっちゃうようなのがいるよ。そういう犬で
もなんでも、高ェ銭を出して買って、犬に美味ェものを食わして、自分が食うものも食わねえで、犬
に食わして、犬が肥って手前が痩せちゃってやなんか……それだって犬が好きだからしょうがねえや
なァ、なァ? 犬の嫌いな人を見ろよ、お前。犬が入って来ちゃ大変だてえんで、こう高ェ銭を出し
て、塀を頑丈にしたりなんかするのがある、え?犬が嫌いで――片ッ方は好きで、ェェ銭を使っち
ゃう。みんな、好き嫌いてえのは、そこにあるんだ」
 「ほオオ、なるほどなァ」
 「そうよ、みんなァそうだァな、うん。いろいろ、その人間てえものは好き嫌いてえものがあるんだ
よ、うん。虫だってそうだぜ、お前、なァ。こっちの人は手の上に乗っけて、喜ンで――片ッ方のほ
うじゃ、蒼くなって震えんのはみんなそうだ。好きッ嫌いがあるんだ。それはてえとね、あのゥあれ
なんだよ……生まれたときに胞衣(えな=胎盤等)てのがあるだろうよ、臍ンとこへ羽織の紐の、短ッけえようなもの
がよ、な? あいつをちょきィんと切ってねェ、埋めるだろう? その埋めた上を初めて、蛙なら蛙
が、こう歩くってえと、その人ァもう蛙が、くゥッ嫌いんなっちゃうんだ」
 「ふゥん、そういうもんかなァ」
 「そうよ、なァ? うん。蛇がお前、すゥうッと行ってみねえな、蛇が嫌いになっちゃうんだ」
 「はァ」
 「だから、好き嫌いてのァ、あるんだよ……。お前は、どういう種類が、虫のうちじゃ嫌いだ?」
 「俺ェ蜘蛛:…」
 「蜘蛛オ、嫌かァ?」
 「蜘蛛オ嫌だ。蜘蛛ッてやつはね、どっさり手がありゃがってな、うん、あいつがこうやって(手の
指を広げて、からまるような形)、こうなってんのを見るとね、俺ェこうも嫌ェだから、うん、なん
だァ、夜店で、炭をつかう道具があるだろう、こう、あれェ蜘蛛に似てやがッから、あれ俺ェ買った
ことねえんだけども、こう、嫌だね、蜘蛛なァ」
 「うん、じゃァ手前の胞衣の上を、蜘蛛が歩いたんだ」
 「それに違えねェ、蜘蛛が俺ァ、大嫌ェだッ」
 「うん……(その隣に)お前は、何が嫌いだ?」
 『俺か?』
 「うん」
 「俺はねェ、守宮(ヤモリ)」
 「守宮ィ嫌だなァ」
 「守宮は嫌だ」
 「(隣へ移って)お前は?」
 「俺は、螻蛄(オケラ)……」
 「螻蛄どうして嫌なの?」
 「いやァ、あん畜生ねェ、ごみ溜めンとこを掘るッてえと出てきやがんだよ――冑みたいのを被りや
がってねェ、うん、そいで掴まえて、『どオのくらい?』ッてえと、こう(両手を広げてばたつかせ
て)やりやがン……どうも、大嫌い、螻蛄」
 「うん……(次へ移り)お前、お前は何が嫌だ? どういうものが嫌いだ?」
 「嫌いどころか怖いね、見て」
 「なァに?」
 「百足」
 「百足ェ嫌だなア」
 「百足ェ嫌だ。あの百足を見るとね、『あァッ、もし俺が百足だったらどうしようなァ』と思って考
ィる」
 「だってお前ァ百足のわけはねえじやァねえか」
 「だけどもよ、あんなに足があった日にやァ股引きィ買うッたって大変だ……」
 「この野郎オ待て。倹約から怖くなったね、うん。(大声で)どうだァい、そっちは。辰ッつアん、
え? お前なんか怖いものオねえかァ?」
 「(あっさりと)怖いものない」
 「なァんかねえ……」
 「なんにもない。俺ァ怖いものなんぞ決してねえや」
 「なんかあッだろ?」
 「なんにもない」
 「ンなァ、怖いものありそうなもんだなァ。みィんな怖いものいってんだ――お前もなんか怖いもの
なくっちゃなんねえ」
 「一昨日、嬶の炊いた飯が強くってね……あれじゃァ胃をやッちゃうからってよくそういったんだ」
 「いや、そういう強いんじゃァないんだよ。怖くってこうねェ、動けなくなるような怖いものはねえ
か?」
 「ェェ……先月ねェ、うちの嬶がね、揮ィ洗いやがった。そいつィ糊をうんとくっつけちゃった……
強くて歩けねえんだよゥ」
 「およしよ、この野郎……手前のいうことァ本当に癪だなァ。なんか怖ェものゥお前、みィんなァあ
れが怖ェこれが怖ェーッてのに、手前ばかり怖いものねえなんてね。蛇なんざどうだ蛇なんざァ」
 「蛇なんぞお前、俺ァ頭痛のするとき鉢巻きにするんだィ」
 「蛇かァ?」
 「うん、あいつァね、生きてるゥ……向こうできゅうッと締めてくれるから、とてもいいんだ、蛇ァ
……」
 「蜥蜴はどうだ」
 「ンな蜥蜴なんざもう、蜥蜴、守宮ね、でェああいうものァみんな、三杯酢にするの、俺は……乙だよ」
 「蜥蜴やなんか?」
 「うん」
 「へえェ」
 「もうねェ、蟻なんぞいやがるとね、よせといてね、それでもって飯の上ィね、胡麻塩の代わりにね
……え?蟻飯ッてだよ、胡麻塩だよ、ね?胡麻塩が動いて食いにくいけれどね……」
 「忌々しい奴だなァ。手前一人で、怖くねえ怖くねえッて、なァにか怖く、怖くねえのかよゥ」
 「怖くねえよゥ。ふゥん、怖いもんなんてなァあるかァ。人間はな、え? 万物のれいちょうてえく
れえのもんだ」
 「れいちょうか。れいちょうッていう『れい』の字はどう書くゥ?」
 「(咳払いをして)丸ゥ書く」
 「ッてやんでェ、丸ゥ書くッてやがる――れいちょうの『れい』を……ひとォつぐれえなんかお前、
怖ェものありそうなもんじゃねえか、ええ?」
 「えヘヘヘヘェ、実は、それはあるよ、ね?俺だって、人間なんだから、怖いものあるさ」
 「なんだい」
 「いや、それは俺はいえねえ」
 「どうして?」
 「それをいうとね、ゥゥ人間がだらしがなくなっちゃって、でェあたしが、体中ゥ総毛立立って、おこりが
おこるように震えてくるン……」
 「へえェ……なにが怖え?」
 「(考えて)一言いうよ。二度目のこと聞いちゃいけないよ、いっぺんだけいうから……」
 「なんだィ」
 「俺の怖えのァな……」
 「うん」
 「饅頭ゥ……」
 「え? まんじゅうゥ? (下手隣へ)まんじゅうッて動物、知ってるかァお前、え?」
 「奴の怖がってるまんじゅうッて動物はねェ、印度の奥のほうかなんかで虎かなんか追っかけてやん
なァ……」
 「どういう動物だ? まんじゅうッてのァ?」
 「うゥんッ、違うよゥ……菓子屋にある饅頭ゥ」
 「だって……あんなもんがどうして怖ェんだい。饅頭がどうして怖ェんだィ?」
 「どうしても怖い……怖い。それはね、お前たちは怖くないよ。俺ェはなにが来たって驚かねえんだ
よ。饅頭だけは駄目なんだ。だから菓子屋の手前ィ来て、ここの店に饅頭があるなッと思うてえと、
眼を瞑って、ぱァあッ駆け出さなくちゃ、そこんとこ通れねえんだよ」
 「あんなものがか?」
 「そうなン……恥ずかしいけれど。なんたる因果だと、子供が饅頭かなんか食って、俺の胞衣の埋め
てある上に落ッことしたに違ェねえんだよ。饅頭だな……こう、こういうふうに(震えてみせて)総
毛立つン……え? (急に怖がって)嫌だ、怖い、くッ、うゥうゥ……」
 「顔色が悪いね、お献ァ……」
 「(泣き声で)だからよしてくれッてんだよ俺に聞くのは……実に情けねえ。饅頭ゥ怖い……(泣き
出して)うゥゥうゥ怖い……」
 「顔色が……じゃァ、そこィ寝ねえな、お前、え? ああ、誰か蒲団敷いてやれよッ、うん。頭から
蒲団、被してきてやんなァ……」
 「(心配そうに)どうしたんだろうなァ」
 「そりゃァ怖いんだよ、あいつは。顔色があんなんなっちゃったから……」
 「へえェ、あァいう図々しい野郎が、え?饅頭が怖ェなんてなァ、うん、うゥ」
 「ところで俺は、ひとついま、考えたことがあるんだがねェ……あの野郎と喧嘩しても俺ァとても敵
わないよ。でェ飲み屋へ行った割り前をとろうッたって、あいつは払わないよ、ね? いつでもこっ
ちが出しちゃうんだ。とろうと思ったって出さねえ、喧嘩すりゃ敵わねえッて、図々しい野郎だねェ
あいつァ。図々しい取り締まりみてえな野郎だからね……だからねェ、なんかであいつ、ひとつひど
い目にあわしてやろうと思ってるン……(吐き捨てるように)丁度いいや、あいつ、え?怖い怖い
ッてやがる、なァ? これから饅頭を、ひとつ買ってきようじゃねえか。買ってきて、あいつの枕許
に俺ァ置いといてやろうと思うんだ……話をしてさえああなんだから、本当ンなったら驚くよ。俺、
饅頭ゥ買うよ」
 「じゃァ俺も買おうじゃねえか」
 「そうかァ……(他の仲間に)おうッ、そっちでも買うか? みィんなに憎められてやんなァ。じゃ
ァ買ってきてくれ、うん? あァ、ああ、そうそう……」
 「で、どうする?」
 「うん、買ってきたらね、盆の上ィこう、山のように積ンで、あいつの枕許へそゥッと置いてきて、
な? そいでこっちでもってね、天丼でも食おうじゃねえか――ッてなこといって、話をしていると
あの野郎、図々しいから、え?起きて、一緒に食おうと思いやがって、ひょいと起きるッてえと、
枕許に饅頭があって、え? 話をしてさえ蒼くなっちゃうのが、その饅頭を見て、驚いて、きゃァあ
ッてって、仰向けにあの野郎が、たァあんと引っくり返って、体中ゥ斑になって、あいつァのびちゃう……」
 「そしたらお前、俺たちゃァ、なんか責任にならねえか?」
 「(冗談じゃないというふうに)責任ならァないよ――饅頭であいつが死ぬんだから構わないよゥ。
ねえ? 暗〔餡〕殺ですよ、あれは……」
 「じゃァ暗殺ゥしちゃおうじゃねえか、あいつゥ」
 「あいつは暗殺される野郎だよ、もういると邪魔でしょうがねえからね、うん……(下手へ)どうし
たァ? うん、買ってきたァ、よし。誰かそこ開けてやれ。そゥッと持ってって、落ッことしちゃい
けないよ……そゥッと、あと閉めてこい。(うまくいったと手を打ち)起こしてやれ、な? (大
声で)おオオうッ、起きねえかァ」

 「(前かがみの姿勢で唸っている)うゥ、うゥッ、饅頭ゥ……(大声で)怖いッ、ェェえン……」

 「だからいいじゃねえかァもうそんな話をしなきやァ……いまァみんなで天、天丼食おうッてんだァ
どうだァ、付き合わねえかァ」。

 「ェえェん、(泣き声で)饅頭のこといわれちゃったんでもうしょうがねえ……寒気がしてきてたま
らねえ。おこりみてえになった……」

 「大丈夫だよゥ、こっちへおいでよゥ……」

 「ええ……ェェん。あァあ、なんの因果だろうなァ俺は。もう饅頭ゥ……ゥあァァ……(起き上がっ
て、ふと枕許を見て)うッ……うッ、あァァあッ……饅頭があるッ、饅頭だァッ……うわァァあッ」
 「(上手の奥へ)どうしたィどうしたァいッ」

 「(震えて)うゥうゥうゥッ、こんなこと、誰が考えついたッ、うゥゥうッ、うゥうゥうゥ怖い怖い、
怖ァいイイよオオ、怖ァい、ェェんェェん(泣きながら、以下、饅頭を食べる)、うゥゥん、うん、
唐饅頭ゥ怖ァあイッ、ェェェえンッ……(しきりにつまみ上げては食う)うァァァ怖い……(餡を見
て、実に美味そうに食べる)怖ァいよオオ、うェあァァッ……うェあァッ……」

 「おッ……ちょいとのぞいてね、楽しもう、ね? いいかい? 一人で見てちゃ駄目だぞ」
 「大丈夫だよ、俺がちょいと先に見てね、え? 障子ンとこオここ、えヘヘェ(襖を細目に開けての
ぞく形)……」
 「どうだァ? え?蒼くなっちやってッだろう、え? え? もう震え上がっちゃってッだろう?」
 「何をゥ?………(のぞきながら)震え上がるゥフ………何いってやんでェ……よく見ろよオ……怖い怖
いッてながら食ってやァんだよ」
 「(驚いて)饅頭をかァい?」
 「そゥ」
 「へえェ? うッ、あッ(襖を開けて入り)……おゥッ、怖ェ怖ェゥて饅頭、食ってる奴があるかッ」
 「(あわてて前かがみになり)ェェえン、ゥゥうッ怖い……」
 「あァあッこオん畜生オ……手前はいったい、何が怖ェんだァ?」

「ェあァァあァ、今度は、お茶が怖い……」

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January 27, 2008

クランポン??

2008_1_27sax

土曜日はMっちゃんが無理矢理連れてきたお客様登場。
明るい36歳、独身、持ってこられたサックスが赤ベルで感動。
サックスにもあったんだ。。。銅の色。
クランボンのサックスとかで実に高価だとか。
B♭用の楽譜をその場で見ながらサックス用に吹き替えるなんて。
おまけにうなる??
サックスを尺八みたいに吹いて・・・凄い。
勉強になりました。
負けるな、うまこ!!(^O^)

まだバンドやっています。
正月を越してなんか、だらけたままですが。。。(笑)。

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January 26, 2008

アーケード。

2008_1_25mati

地震であかんようになった新天町のアーケードの掛け替え工事。
100トンクレーンやて・・・・・・
邪魔なんや。。。。。
ええかげんにしいや。。。。。

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January 25, 2008

猫も寒い。

2008_1_24catF50

白ネコを一週間以上見かけなかったので、車に轢かれて
死んでしまったかなと思っていたら久しぶりに復活した。
安心した。
茶トラは誰かにいじめられたのか、人を警戒するようになった。
また猫も成長してるだろうから、テリトリーが広がったのか
集まりも少し悪くなってきている。

先月の野良ネコ3兄妹

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January 24, 2008

たちぎれ線香。

落語の中ではかなりの大作になるらしいです。
それを草々がやるのは時期尚早な気もしないでもないのですが・・・。
実際の落語では草原兄さんこと桂吉弥さんは上演しているようです。
悲恋物語どすえ。


若「丁稚、……あっ定吉、、ちょっ、ちょっとおいで」
定「勘忍しとおくなはれ。今日は若旦那の傍へ行ったらいかんて言われてまんねん」
若「ちょっと来い」
定「いやあの、番頭はんにかたがた言われてまんので、それにあっちに番頭はんの用事も
 おまっさかい」
若「ちょっと侍て、番頭、番頭てなんやいな。番頭がなんや、奉公人やないか。わしゃここの息子やで。
 番頭が言うことがきけて、私の言うことかきけんのか」
定「そういうわけやおまへんけど、今日は、今日だけは若旦那のそばへ……」
若「こっちィ入り。座り、……座り言うねん。………下ヘぎょうさん親類卸一統が集まってはるやろ」
定「へえ」
片「お前、あの席へ出てたな」
定「へえ、あの、お茶運んだりお菓子運んだりしてました」
咎「どんな話をしてた。わたいのこと言うてんねやろ、どんな話やちょつと聞かして」
定「それはもう番頭はんから、かたがた言うたらいかん、若旦さんのお耳に入れたらいか
 んということになってまんので」
若「かまへんやないかい、番頭が何を言おうと わたしが言えと言うてんねん」
定「それがつらい、番頭はんに五十銭貰た義理はないけど……」
れ「ああそうか、五十銭貰うたんか、安い義理やな。 向こに五十銭貰うて義理たててんの
 やったらわたい一円あげるがな」
定「一円おくなはるか、ほなあんたに落ち札や」
若「頼母子みたいに言うてるがな」
定「……(手を出す)」
れ「あとでやるがな」
定「あとでて、………言うだけ言うてくれなんださかいいうて告訴するわけにもいかす、当
 節はどなたはんに眼らず現金で願とリま」
若「そら何を言う。あとでやるがな」
定「きぃとおくなはれや。あのな、皆さん今日はむつかしい顔して座ってはりました。ほ
 いで一番はじめに親旦那耶さんが切リはりまして『今日は皆さん方お忙しいのにうちの
 倅のためにお集まりいただきましてありがとうございます ご承知の通りうちにああい
 う金食い虫がわきました………あんたカこってんのやで、お金食べはりまんのかあんた。
 で、『いろいろ意見してもききまへんので勘当をしようと思いますが、跡取り息子のこ
 とでございますのでご親戚がたの意見もお聞きしたいと思います。どうぞ皆さん遠慮な
 くおっしゃってくださいますよう……………ほたら一番先に口切りはったんが京都の旦さんでんねん」
若「京の伯父貴がどない言うた」
定「お前の手もとへ置いとくよってにあいつは甘える、わしが京へ連れて去の』…………言うて」
若「……そうか。京のおっさんはなあ、うちのおやじと遠うて若い時極道の一つもしてき
 た人や、話がようわかるのや。京は良えなあ、しばらく京へ行てこうか。祇園、島原、
 先斗町、一年中春でも秋でも良えとこ……」
定「そんなのんきなこと。言うてたらあきまへんのやで、あんたを働かす言うてはりまんねん」
笞「……なにさすねん」
定「『あの子は身体を責めたことがないよってにありがたみがわからんねん。高瀬の綱曳き
 させよか』と、……あんた高瀬の綱曳きて知ってなはるか。知んなはらへんやろ。わて
 京都に槻類があるさかいよう知ってまんねやで。あのな、高瀬川という川が木屋町のそ
 ば流れてます。あすこ、この高瀬舟いうて、底の浅い舟がこう上リ下リしてまんねん。
 下りは流れに乗ってスーツと行くけど上へ上げる時は人間が引いて上げまんねん。その
 綱引く商売、えろおまっせあれは、夏でも冬でもこういうぐあいにしてエイッ、エイッ、
 エイッ、エイッ……、これあんたやりなはるか」
若「……ほなわしは高瀬の綱曳きに決まったんかい」
定「決まりかけたんでんねん。へえ、ほな丹波の旦さんがな『いやあんな男、京みたいな
 所へ連れて行たら何しよるやわからん。わしが片波の田舎へ連れて去の』……と」
若「判った、判ったある。丹波の叔父貴の腹はわかってんねん。向こにな、あのおもよと
 いうて無細工な娘が居とおるのや。縁遠い娘やであれ、相手がないのやがな。わしとめ
 あわせようと……」
定「そんな陽気な話とちがいまんのやで。『あの子に野良仕事さす』言うて……で、『牛を
 追わそ。ほいで、うちにまだ博労してない買うてきたばっかりの気の荒い牛が居てるさ
 かい、あれを追わして野良へ出す。なかなかあいつの言うことなんかきけへん。あれ、
 いらちやさかい尻の一つもパーンとどついたら牛が怒って角へかけて突き殺してしまい
 よる。ほなもう片づいて良えやないか………と」
若「なんということをまた……、ほなわしは牛の角に突き殺されることに決まったんか」
定「決まりかけたんでんねん。ほな兵庫のお家はんがな『まあそんなむごたらしい。牛の
 角で殺さすやなんて、血ィ見るだけでもいややおまへんか。そん々ことするのやったら、
 わたいが兵庫へ連れて去にます』……と」
若「なあ、やっぱり女だけに優しいわい。兵庫は良えで。あそこの伯母はんとこはな須磨
 に別荘もあるねん。わしや魚つりが好きやさかいなア、しばらく兵庫へ行て釣りでもしてよか」
定「へえ、釣りはさせてくれはりますわ」
若「そやろ」
定「ああ、『あの子は釣りが好きやさかい釣りにやる。なるべく嵐の来そうな日を選んで、
 壊れかけた船に乗せて釣りに出す。嵐におうて船がひっくり返ってしもたらあの辺には
 フカがぎょうさん居とおるさかい、フカに食われてしもたら死骸を見いでも良えし、葬
 式する世話もなんにも要らん。もうこれが一番片づいて良えやおまへんか」言やはった
 らみな『それが良え、それが良え』……と」
若「……女子が一番えげつないやがな。ほな、わしやフカの餌食に決まったんか」
定「決まりかけたんでんねん。ほんなら御番頭はんが出てきやはりましてな『皆さん方、
 何ということをおっしやいます。ご冗談にも程があります。なにも殺さいでもよろしい
 やおまへんか。さっきどなたかがおっしやったように若旦さんは自分でお金を稼いだこ
 とがないので、そのありがたみがわからいであのようにお使いになりますのんで。若旦
 さんにお金のありがたさというものを身にしみて知っていただくために、どうでおまっ
 しゃろ、あのお方を乞食に仕立てたら……、一文、二文の貰いだめをして歩いたら、あ
 あ五十銭銀貨いうたらなんと尊いもんやなあということに気がお付きなるんとちがいま
 っしやろか」言うたら、みんな「そら良えとこに気がついた、さすがは番頭どん。乞食
 にしよう、乞食にしよう」……で、乞食に決まりましたんで、あんさん、へえ。ほなま
 あ乞食の衣装が要るいうんでな、ほいでお清どんやなんかが家中で一番汚い着物いうの
 をさがしてきて、乞食継ぎ当てたり、ま、いろいろと手間かけて乞食の衣装がでけまし
 た。ほな権助どんか「縄の帯わたいがこしらえたげる」言うて縄の帯がそれへ。丁稚連
 中は、頭陀袋でも寄進に付こか言うて、今用意が大方、できあがってまんねん。へえ、
 あんさんなア、乞食のことなんかあんまりご存じおまへんやろけど、わたい小さい時分
 に場末に住んでましたさかいよう知ってまんね。あれな、つらい商売でっせ、今日はな
 んぽお腹が大きいても明日また御飯にありつけるやどやわからんさかいな、お腹が大き
 いてな顔したらあきまへんのやで。なんぼお腹一杯でも哀れな顔してな、一昨日からな
 んにもいただいてまへん、どうぞおあまりを……」
若「そっちい行け、アホ」
定「あッ若旦那、一円……」
若「離せッ……」

 …………………………………………
若「……なんだんねん。逃げえでもよろしいやおまへんか。この部屋には恐い人ばっかり
 座ってはんねん。逃げることおまへんやないか。わてをフカの餌食にするとおっしゃっ
 たのはどなただんねん。牛に突っ殺さす言やはったんはどなただす。なにも逃げんかて
 ええやおまへんかいな。恐い人ばっかり揃てはんねん、この部屋には。……番頭、お前
 偉いもんやな、おい。番頭番頭と奉ってりゃ良えかと思うて、番頭が何ほど偉いのや。
 お前、わしを乞食にすると言うたそうやな。ええ、番頭が何ほど偉いねん、たかが丁稚
 の劫経た奴やないかい。おい。わたしゃここの一人息子やぞ、主人やぞ。奉公人の番頭
 に乞食にされたら本望や。さッ、見事乞食にしてみいツ。甲斐性があったら乞食にせえッ」
番「……(キセルでゆっくり煙草を一服吸う)……お座りやす。……お座りやす。……仮にも
 船場の御大家の若旦那ともあろう御仁が、目上ばっかりお集まりの席へ挨拶もなしに飛
 び込んできて、立ちはだかって物を言うとは何事でごわす。座んなはれッ。……若旦那、
 これは何でございます。御当家で一番大事な蔵の鍵でごわっせ。これだけご成人あそば
 した息子さんがあるのに、赤の他人の丁稚の劫経た番頭に、この蔵の鍵を預けなはる。
 親旦さんは一日も早うあんさんに預けたいと思うてなはるのとちがいまっしゃろかな。
 いかにも奉公人の番頭があんさんを乞食にすると申しました。しかしあんさんのほうで、
 それはいやじゃ、どうでも乞食はいやじゃとおっしゃったら、むりやり乞食におさせす
 るわけにもいきまへんが、あんさんが乞食にせえとおっしやる。こっちはさせたい、そ
 っちはしてみい………こら願うたり叶うたりという話で……。乞食になっておもらいも
 うします。……この通り、お清どんが丹精こめて乞食の衣装を縫うてくれました。権助
 どんから縄の帯、丁稚連中からの頭陀袋、……喜びなはれや、お乳をさしあげた乳母ど
 んが、大家の若旦那、手づかみで飯食うこともなろまいと欠けたお椀に箸が二膳、ちゃ
 んと揃てます。さ、お着替えやす。着替えなはらんか……。乞食がそんな良え着物着て
 てもろてはどんならん。脱ぎなはれツ。……私が脱がせまひょか」
若「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、乞食いやや。番頭どん勘忍して。わて乞食いやや、乞食、いやや」
番「あんた今乞食にせいと……」
若「い、いやや、誰がお前、そんな格好してこの町内が歩けるかいな。もう、乞食いやや、
 今のは嘘、あらはずみやがな、乞食はいやや」
番「乞食、あんたおいや……」
若「ああ、いやや。もう他のことやったらあんたの言うこと何でもきく。そやけど乞食だけは、勘忍して」
番「ああさよか。いやじゃとおっしやるなら無理にもなろまい。乞食はいやじゃが他のこ
 とやったらなんでも……」
若「ああ、他のことなら何でもきくさかいな、目エで沢庵(こうこ)を噛め、言うたら噛んでみせるさかい」
番「……誰ぞ台所へ行て沢庵を一切持ってきて」
若「そ、そんなもん、ほんまにできるかいな……」
番「あんさんそれがいけまへんのやで、でけんことを何でするとおっしやる。わたしはで
 けんことをしてもらおうとは言いまへん。乞食のかわりに百日の間、蔵住居をしてもらいます」
若「蔵住居……」
番「三番蔵、ちょうど品物がはけて空いとおります。あすこへ百ヵ日の間入ってもらいま
 す。一歩も外へお出ましはなりまへん」
若「そんなお前、ズーッとそんな……」
番「いやなら乞食……」
若「いいや、いややないけど、……蔵ン中へ」
番「蔵とは言いじょう、畳も敷いてちやんと調度もいつものように揃えてございます。夜
 具、布団、お召物、お好みに応じて揃えます。丁稚を一人つけておきますよってに、食
 べたいものや読みたいご本があったら、それに言うていただきましたらなんでも差し入
 れますで。ただお風呂は具合が悪い、行水で辛抱していただきましょう。そのほかお気
 に向くように百日の間すごしていただいて結構でおますが、蔵からお出ましになること
 だけは、これは固くおやめを願います。さ、こちらへ」
若「長いなあ、百日やなんて。せめて五十日」
番「なりまへん、こっちへ来なはれ」
 ガラガラガラガラ、ピシーン、と、錠が下りました。

 こんなおとなしい若旦那がなんで蔵へ放り込まれるようなことになったかと言いますと、
ある日、親旦那の名代で、仲間内の寄り合いへ出席をいたしましたら、それが酒の席で芸
妓やなんかも大勢きてました。南地の紀ノ庄という店の娘分で小糸という、これがまあ芸
妓に出たてのうぶなもんですな。若旦那も、ああ芸者にもこんなおとなしいおぽこい娘が
あるのかと思えば、小糸のほうもまあおとなしい、ほんまにうぶな若旦那やこと、こんな
お方と……ちゅうわけで、一目惚れというやつ、こら理屈も何もない。目と目がパッとこ
うかようた瞬間にワッとこうなるもんですな。こういう所に慣れん若旦那ですけど、惚れ
た一念ちゅうのはえらいもんで、どっからか段取りつけて、この小糸に会いだした。
 一ぺん深い仲になると、若い者でっさかいたまりまへん。毎日毎晩南地へ通う。親の意
見も番頭の意見もない、馬車馬みたいなもんで、もう毎日毎日小糸のことよりほか何も考
えん。こらえらいことになった、どうしたらよかろう……番頭が考えましてな、ひとつ親
族会議を開きなさい。……その時分勘当とか廃嫡とかいうことになったら、こら今から想
像もでけんぐらい大変なことでっさかい、そらやはり気にして様子を知ろうとする。丁稚
をそばへやったら、こいつをつかまえて、いろいろ聞き出すにちがいない。で、こう少し
あふるような話をしたら力ーッとなって飛び込んでくるやろ、そこで首っ玉つかまえて蔵
へ放り込めと、ちゃんと番頭の書いた筋書き通りにこれ、乗ってしまいましたんですな。
 あくる日のお昼すぎ、若旦那が蔵へ放り込まれた次の日の昼さがり、番頭が店番をして
おりますところへ、表へ立ったんは、粗い縞物、派手なパッチに尻からげ、ちょっと見た
だけでこら花街の人間かいなあという感じのする男、
O「へっへっへっ」
番「……お越しやす」
O「えー、若旦那は……」
番「若旦那ちょっとお出ましで」
O「お帰りは」
番「いつやわかりまへんなあ」
O「ああさいでおますか。へえ、ちょっとこれ、……この手紙をどなたにも内緒でちょっ
 と若旦那に、お渡しいただきたいン」
番「ああさいでおますか、確かにお預かりをいたしました」
 傍らの小引出し開けて放り込んで、ピシッと錠をかける。次の日、お昼前時分。
O「へっへっへっ」
番「また来たな」
O「若旦那は」
番「まだお帰りやおまへん」
O「手紙を一つ」
番「はい確かに」
 放り込んでピシーン。夕方になりますと、
O「へっへっ」
番「なんや、あんたは」
O「手紙を」
 放り込んでピシーン。次の日の朝、女中さんが表の戸をガラガラガラ。
O「へっへっへっ」
女「もう来てるわ、この人、まあ」
O「若旦那は」
女「お帰りやおまへんの」
O「手紙を一つ」
 ……さあそれから手紙が来たの来んの……。二本が四本、八本、十六本と倍増しに手紙
の数が増える。重畳手紙が来たの来んのやない、ズーッと文使いが続いとります、行列
つくって……。丁稚が一人それ受け取るのにかかりきってるちゅうぐらいなもんで、どん
どんどんどん来た手紙が八十日目にプッッとイタチの道切り……この時この番頭、肩ゆ
すって三文がんほど笑いよった。「フフン、八十日か。色町の恋は八十日か」

 ……………………………………

番「若旦那、おはようございます」
若「はい、おお番頭どんか、ご機嫌さん」
番「えらいお久しぶりでございます」
若「……けったいな挨拶や。ははは、おんなじ家に住んでてこんな挨拶せんならん。お店
 や皆、変わりないか」
番「はい、一同元気で働かしていただいとおります」
若「今日はなんの用や」
番「どうぞ蔵をお出ましを」
若「……何で」
番「若旦那、百日経ちましてございます」
若「もう百日経った……。早いなあ、そうか、いや、入った当座は日の経つのが遅うてな
 あ。まだ三日目や、まだ五日目や、……よっぽど、二、三年も経ったかと思てもまだ十
 日目や。もう一生百日がすまんのやないかいなあ、てな気になってたが、……途中であ
 きらめてしもうたらいつの間にかもう百日か。番頭どん、わしや喜んでるねん。あきら
 めてしまうと気が落ち着いた。長いこと忘れてたもん思い出したような気がしてな。
 ……蔵ン中て良えなあ、世間のうるさいことは何にも聞かんし、本読んでもみなお腹へ
 入るんや。ははァ、今までこんなことがなんでわからなんだんやろ。ほんにわしやアホ
 やったと………人の言うこと、人の気持ち、あの時はこうやったんやとか、いろんなこ
 とが判って、ほんまに喜んでる。こら良えわ、もう百日入ろ」
番「いや、そう入っててもろてはどんなりまへん。もう出ていただかんと困ります、へい。
 あの、お風呂も沸いておりますし、床屋も参っております、はい。御両親お待ちかねで。
 ……実はな、二十日目ぐらいだしたか、親旦さんがわたしを呼んで、「番頭どん、定吉
 から聞いてみるとこのごろ、あの子もえらい落ち着いてるようなぐあいや、もう、ど性
 根に入ったやろ。この辺で出したったら……」わたしもよっぽど、へえそうしまひょう
 と言いたかったんでごわすけど、いやいやここや。今ここで心ゆるめたら仏つくって眼
 入れずになると思て、心を鬼にして今日までこさしてもらいました。そない言うていた
 だきますと、わたしも嬉しゅうございます。へえ。……あっ、それからこれはちょっと
 お耳に入れとかないけまへんが、実はあんさんが蔵へお入りになりましたそのあけの日
 にな、南地の小指(これ)のとこから……」
若「何を言うねん。そんなこと言うたらいかんやないか。一生懸命になって忘れようと思
 てるのに、お前のほうからかい出すやつがあるかいな」
番「いいえ、まあ、これは聞いといていただかんとどんなりまへん。女はんのとこから手
 紙が参りました。それお見せするわけにゆかず、わたしゃ預かっとりますが、まあその
 次の日から手紙が来たの来んの、四本、八本、十六本と倍増し、大きな話をするようで
 ごわすけど丁稚が一人、文使いの応対にかかりきり。こら蔵一つあけて手紙なおす所考
 えんならんなあちゅうぐらい、ま、どんどんどんどん手紙が来ましたが、八十日目でプ
 ツッと切れましておます。なあ若旦那、水臭いやおまへんか。これが日に一本でもええ、
 蔵をお出ましになる日まで続いたら、親旦さんがなんとおっしゃろうと、わたしには
 ……考えてたことがございましたが、八十日で脈あげよりましたんやなあ。もうあかん
 なあてなもんだ。恋はこいでも、金もてこい、てな言葉がございますがなあ………もう
 ああいう所」
若「わい、もう行けへん」
番「いや、お行きあそばせ。わたしゃ朴念仁で、あんな所へ行たことがおまへん。へえ、
 芸者ちゅう紗は夏着るもんか冬着るもんか、幇間というもちは焼いて食うのか煮て食う
 のか、なんにもわからん人間でごわすが、ああいう所も結構な所やと聞いとおります。
 わたしかてお供さしてもらいま。お出かけあそばせ。ただし、遊びにお出であそばせや
 ……。真剣になって通う所やないと思います。それさえご得心がいきましたらもうどん
 どんお出かけいただいて結構でごわす、へえ。ほんまにな、わたしゃこんなこと何にも
 わからんが一つぐらいお目にかけたいと思て、……いや、読んでいただかんとわたしも
 責任がございますでな。一番上にのってたん、こいつ一番しまいに来たやつやと思いま
 す。一本だけ持ってまいりましたんで、これ読んでな、どんなことが書いたあるのか、
 後学のために聞かしとおくれやす」
若「見とない」
番「ま、そ、そうおっしゃらずに一つぐらい見といていただかんと、わたしもあないにぎ
 ょうさんお預かりして、一つもお見せせなんだでは困りまっさかい」
若「見てもええか」
と、広げたやつが一番しまいにきた手紙。もう字も乱れて、この状、御覧に相成り候上
からは、即刻の御越しこれなき節には、今生にては御目にかかれまじく候、かしく……。
 釣針のようなかしくで客をつり……という川柳がございますが……、
若「……しょうもないこと書きよる。いいやいな、阿呆みたいなこと書いたあんねや。と
 ころでな番頭どん、蔵におる間、もう五十日ぐらい前かな。実は天満の天神さんに蔵の
 中から願掛けをしたんや。わしゃ心に誓うたことがあって、蔵を出ましたらすぐにお礼
 参りにあがります、という願掛けしたあるのやが、これから天神さんへお参りにやらし
 てもろたらいかんか」
番「どこへでもお出かけあそばせ。もうご自由なお身体でごわっさかいに、ただ御両親が
 お待ちかねやと思いますので」
若「さぁ、それや。お父つぁんやお母はんに挨拶するのんわかったあるのやけどな、誰に
 も会わん前にお礼参りにあがりますという願を掛けてたんやさかいな。……もうとにか
 くちょっと行て、じきに帰ってくる。じきに帰ってきてお父つぁんやお母はんに挨拶す
 るよってに、ちょっとだけ天満までやらして」
番「ああさいでおますか。へえ、結構でございます、はい。そんならまあ床屋も来とおり
 ますし、お風呂も沸いております。ま、お召し替えだけ、どうぞ」
若「うん」
 ………………………………
若「……ほんなら番頭どんじきに帰ってくるよってに、天満までやらしてもらうで」
番「どうぞこれをお持ちやす」
若「なんや」
番「いえ、お宴銭でやすがな。ぎょうさんも入ってません」
若「金なんか要るかいな」
番「いやいや、どこでどなたにお会いになるや知れまへん。まま、財布だけは……。それから丁稚を一人
 つけてやりますが、おじゃまになりましたらどうぞ帰していただきましても結構でございます」
若「ほな、ちょっとやってもらうわ」
番「どうぞ、お早うお帰り」
 ポイと表へ出ましたが落ち着いて歩いてたんは初めの一丁ぐらいで、しばらく行くとパ
ーツと走りだした。路地をグルグルグルグル、……丁稚をまいてしまいますと、南へ南へ、
紀ノ庄の前までやってきた。
若「ごめん……こんにちは……留守かいな、ごめん」
内儀「はい……はい。これお仲、どなたかお人が見えてはるやないかいな。ちょっと出てみなはらんかいな」
若「……あッ、お仲、ご機嫌さん」
仲「まあ、……若旦那」
若「ちょっと事情があって、しばらくよう来なんだんや」
仲「あの、……ちょっとお待ちを」
内「……なんやて、若旦那、……わてに若旦那だけでは判らんやないかいな。どこの若旦
 那:…なに言うてなはんねん。あの若旦那がお越しになるはずないやないかいな、……
 ええほんまやて、……ま、若旦那」
若「お母はん、……ご機嫌さん。ちょっと事情があって長いことよう来なんだんや。いや、
 すまなんだ。いや、またゆっくり話をするんやが、今日もな、急いでるねん、じきに帰
 らんならんのや。ちょっと小糸に会わしてえな。顔だけ見てすぐ帰る。も、近いうちに
 来てゆっくり話さしてもらうさかい……あの留守か、お花(お座敷の意)か、お花やっ
 ったらちょっと貰いでもかけてえな、……あのちょっとだけ会うて」
内「……あんた小糸に会いとおますか」
若「会いたいさかい出て来にくいとこを、とんで来てんのやないかいな。じきに去ぬよっ
 てに、あの、ちょっとだけ今日は、……改めて来るよってに」
内「ああ、はあ、まあどうぞお上がりやす。いえ、小糸どこへも行ってえしまへん。家に
 居てますよってに、ま、どうぞお上がりを……若旦那、さ、小糸に会うてやっとおくれ
 やす」
若「なんやこれ、位牌やないかいな、げんの悪いことしないな……釈尼妙……俗名小
 糸……おっ、……小糸死んだん、なんで死んだんや、誰が殺したんや」
内「何をおっしゃるのン、誰が殺したてなこと言われたら、あんたが殺したと言いとなり
 まんがな」
若「……な、なんでや」
内「……若旦那、一番しまいにうちへ来てくれはった時に、あんさん小糸に芝居行き約束
 してくれはりましたなあ。あの娘えらい喜んで、前の日髪結いさんへ行て帰ってきてか
 ら、寝えしまへんねん。なんで寝えへんのや。この髪が乱れたら若旦那、いやがらはる。
 何言うてんのや、寝なんだらまた芝居の桟敷でコックリコックリ、居眠りしたりしたら、
 それこそ若旦那にいやがられるわいな。そんなことせえへんわとかワーワー陽気に言う
 て、……朝暗いうちからもうソワソワソワソワ、この着物が良えやろか、あの着物が良
 えやろかと………ところが、あんさんのお越しがおまへなんだわな。お昼前ぐらいにな
 ったら、お母ちゃん若旦那なんで来はらへんのやろ。そうあんたやいやい言いなはんな、
 若旦那かてあんた一人で買い切ってんのやあろまいし、どんな御用がおできになったや
 わからん。そらま、ちょっと待ちなはれて………そのうちにお昼まわってしもたらもう
 あの娘、すねて着物も帯も脱いで放ってしもうた。お母ちゃん、わて若旦那に嫌われた。
 そんなあんた短気なこと言う人があるかいな、じきにお知らせかあるわいなあ……て。
 ……今時分から来やはったかてもう芝居には行かれへん、間に合わへん。ワーワーワー
 ワー言うて、……そやけどあんさんのほうからなんのお便りもないし、とうとう小糸泣
 き寝入りに寝てしまいました。翌日の朝起きてけえしまへんねん。なにしてんね、御飯
 は。欲しない。……ほっといたらお昼まで二階で泣いてまんねん。お昼御飯食べなはる
 か。いらん。……怒りましたえ私も。もう、ええかげんにしときなはれ、わがまま言う
 のも。そんなこと言うてたら今度はわてが心配するやないか。……勘忍……下へ降りて
 きて、軽うに一膳食べただけ……、お母ちゃん、若旦那に手紙書いたらいかんやろか。
 わて初め止めましたんやで。堅い船場のお店へ色街から手紙やなんて、そんなことがで
 けますかいな。……そやけど、あんまりあの娘がいじらしいよってにな、ほんなら誰か
 に頼んで、わからんように届けてもらおか。喜んで手紙書きました。辰つぁんに頼んで
 ソッと持って行とおくなはれ。……若旦那どこかへお出かけでお帰りやないちゅうんで、
 それから、手紙書いて良えとわてが言うたもんやさかい、毎日毎日もうお商売やみな休
 んで、手紙ばっかり書いてまんねん。も、御飯もろくに食べんと。と、朋輩衆がみな聞
 いてきて、ああそらいかん、若旦那そんな殺生なこといかんわ、ほな私も手伝うたげる
 言うて、皆机並べてズーッと、うちまるで寺子屋みたいなもんでんがな。ぎょうさん
 ぎょうさん手紙書いて、文使いの人が行ったり来たり、行ったり来たり:…そのうちに。
 だんだんだんだん身体は細ってくるし、御飯ものど通らんようになってしまう。重湯も
 ろくに通らんようになって、もう骨と皮。それでも毎日手紙だけ書いてましたわ。慰め
 ようもないようになってたところへ、そう、あんさんがあつらえてくれはりました三味
 線。はあ、あんさん所の紋と、小糸の紋が比翼になったやつが胴についた、あの三味線
 が若竹屋から届いた。わてやれやれと思いました。もう慰める言葉も、もうなんにもな
 くなってたとこ。……これには何か事情があるに違いない。決してお心変わりやないの
 や、それが証拠に若旦那のこと、あれから誰も知らんやないかいな。どっかよそへ遊び
 に行ってなはるとかなんとか……。いやそんなことはない。いやこうも考えたらどうや
 とか、いろいろ、もう言うことがないようになってたところへ、あの三味線がきました
 んや。喜んで小糸の枕元へ持って行ってやってな、これ見なはれ、やっぱりこれは何か
 事情があるのに違いないんや、若旦那がお心変わりやったら、こんなもんが届くかいな。
 こんな高ついた三味線をやな、これあんたのことを思てこしらえてくれはったやつやな
 いかいな。……ほんにそうやなお母ちゃん、この三味線、あて弾きたい。……弾けるよ
 うな身体やないねんけども、まあ弾きなはれ言うて、……あの時、お仲、あんた何やら
 してたな、うん、台所のほうから手エふきなから飛んで上がってきて、小糸を後ろから
 抱きかかえて、はあ、わてが三味線を、……調子もなにも合いますかいな。わてが合わ
 したげる、どないすんねん、……あの娘何弾くつもりだしたんやろな。……本調子……。
 で、本調子に合わして渡してやると、うれしそうに、シャンと一撥(ひとはち)入れたままジーッと
 してるさかい、これ小糸どうしたんや、弾きなはらんか、とのぞきこんだら、……もう
 この世の者ではおまへなんだ……可哀そうなことをいたしました」
若「知らなんだ。知らなんだ。なんにも知らなんだや。勘忍して。お母はん、わたいな、
 百日の間蔵へ放り込まれて、一歩も出してもらえなんだんや。こんなことやと知ったら
 蔵破ってでも出てくるのに……」
内「そうだしたんか。いずれそんなことでもあるんやないかなあと思てましたんやけども、
 でもよう来てやっとおくれやした。……いいえわてもな、先の生からの約束や思て、あ
 きらめてますけどなあ。……今日はあの娘の三七日の法事の日、その日にあんさんにお
 越しいただいた、これもなんぞの引き合わせだっしゃろ。線香の一本でも手向けてやっ
 とおくれやす」
若「拝ましてもらおう、お仏壇」
内「お仲、この位牌も持って行てな、それからあの三味線、……忘れんようにお仏壇の前
 にちゃんと供えとくのやで。今日はあとから朋輩衆もみな、お参りに寄してもらうちゅ
 うてな、あとからみなお連れが来てくれるやろ思てまんねやわ」
若「……(線香を立てるシグサ)……勘忍してや、小糸」
内「若旦那、なんにもおまへんけどお一つ」
若「ああ酒なんか飲めるかい」
内「いやいや、一口あがっていただきたい……いや、そらもうお口も濡らさんと去なした
 ら小糸が怒ります」
若「……ほな、ま、お供養やと思て」
内「ささ、どうぞ」
芸妓甲「おけちゃん、えらい遅なりまして。まあもっと早よ来ないかん思てな、みんなも
 うグズやさかい、わてがひとり急かして急かして、ほいでお風呂へ集まって、小糸ちゃ
 んの三七日やさかい遅れたらいかん、早よこんならん言うて……、言うてるのに皆遅い、
 何さしても。はあ、お風呂へ入ってお化粧だけしょう言うてんのに、も、皆ベチャベチ
 ャしゃべって口は動くけど、手エひとつも動かへんさかい、だんだんだんだん遅なる、
 早よせないかんやないかいな、も、ええかげんにして出よいな言うてるところへ、蔦千
 代はんが入ってきやはって、またいつもの若旦那の惚気言うて、もう……すんまへん
 ……かんにん……いやそれでな、ま、蔦千代はんのほうの惚気はええかげんに片付けと
 いて、はあ小糸ちゃんの法事、遅れたらいかんちゅうて出てきて、あんたそこで着物着
 てましたんやわ。フッと見たら番台の上の神棚にズーッと提灯が並んでまっしゃろ。小
 糸ちゃんの提灯が一番目につくところへぶら下がってまんねん。言わいでもええのに、
 この人か、来年からこの提灯が一つ減るんやなあ言うて……、三人ともみなワーと泣い
 てしもて、せっかくのお化粧みなめちやめちやになってしまうし、あわてて塗りなおし
 て出てきました、えらい遅なってすんまへん」
内「……よう泣いてやっとおくなはった。今日はな、若旦那も米てくれてはんねん」
甲「……若旦那て……」
内「そう……」
甲「えッ、……姉ちゃんの仇」
内「何を言うのやいな。今お話聞いた、ああ。若旦那のほうにも無理がないご事情があっ

 たんや。なんにも言いなはんなや。あの今お膳の用意しましたさかいな、ちょっとお酌
 したげとおくなはれ」
甲「……お越しやす……若旦那」
乙「……ご機嫌さんで……」
若「ご機嫌さん……ああ……よう来たげとおくなはった、そうか………久しぶりでお酌し
 てもらいまひょかな。お母はん、いただきます。……小糸、よばれるわ。(一口飲んで咳
 きこむ)ゴホン、ゴホン」(下座、調子を合わせる音)
芸「……キャー、お母ちゃん、お仏壇の三味線が鳴ってる」
内「えっ、お仏壇の三味線が……」
若「シーッ」(下座、地唄の雪、八ほんに昔の昔のことよ……)
若「…………小糸、勘忍してくれ。何にも知らなんだんや。恨んだやろなア。わしゃもう
 な、生涯女房と名のつくものは持たんで」
内「若旦那、よう言うてやってくれはりました。千部万部のお経より、どれぐらいうれし
 かったやろと思います。小糸、今の若旦那のお言葉聞いて、どうぞ迷わず成仏しとう
 や」(下座、♪おしのおとりの……途中でブッッと音がやむ)
若「……な、な、なんで途中で止まったんや。これ、わしの好きな地唄の雪やがな。なん
 でしまいまで弾いてくれへんのや」
内「ほんまになんで小糸、もっと弾かへんねん………若旦那、……なんぽ言うても、もう
 小糸三味線弾けしまへんわ」
若「なんでやねん」

内「お仏壇の線香が、ちょうどたちきりました」

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January 23, 2008

38度。

2008_1_23catF50

火曜日も熱が38度、会社から帰宅して、熱い風呂にゆっくりとはいる。
日本酒を1杯飲んでちょっと食べて寝る。
風邪の時はウナギと決めていますがさすがに朝からはちょっと。。。
ただ、朝、もの凄く冷麺が食べたかったのですがさすがにこの季節コンビニにもありませんでした。
しょうがないので結構好きな「すみれ」のカップラーメンを買いましたが今日は美味しくは感じなかった。
でも冷えたリンゴは美味しい・・・。

「たちぎれ線香」をテキストにしているのですがこの本の読みとれない事よ。
活字が全くソフトに合わないみたい。。。時間がかかりすぎるニャン。

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January 21, 2008

風邪をひいてしまいました。

2008_1_21azuki

土曜日に自転車で街に向かうのですが、ペダルが重く進まない。
風邪ひきかけてるわぁ~。
しかし、土曜日のバンドの新年会はとても楽しいものでした。
生のバッハまで聴けるし。
皆もとても楽しそうでした。
お開きになったときに、Tさんの家のおにぎりが余っていたので持ち帰る。
うちの配偶者も小豆が多く入っていて美味だと申しておりました。
多分、安い値段でお酒を提供してくれたUこにも多大な感謝。。。
みなさんありがとうございます。

今週の落語は「たちぎれ線香」でんな。
線香が何を意味するかを知っていないとまた??なんですわ。
今の時代なら2時間ぽっきりチェンジOK、女の子お届けします。
なんてな具合かも知れませんが昔はセイコーの時計がなかったので
どこぞの太夫を時間買いするときは時を線香で計ったそうです。
若旦那が姫太夫とまだ別れたくないからと線香3本分追加しとくれ、みたいな。
線香1本の燃え尽きる時間がナンボとか、線香3本で1セットとか。。。
安いところは一晩買い切りで朝までいくらとかもあったと思います。
その時は線香は関係ないでしょうけど。
人気のある花魁を買おうとしたら20両とか、30両はかかったらしいです。
時代が変わったので古典落語は難しいです。
貨幣単位も全くピンと来ません。

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January 19, 2008

天災

今週はとても良いお話だったのに何故最後に五木ひろしが・・・。
天災が登場したのは11週くらいだったでしょうか。
焼きサバの娘がA子に草々を取られてしまった、B子に対して言います。
「天から降ってきた災いやと思うて乗り越えやぁ~~。。」
しかし、できちゃったはいけません。
親として許せません。。。

  天災(てんさい)


「へえ、まっぴらごめんねえ」
「だれだ、騒々しい。八公じゃねえか。まあ三日にあげず親子喧嘩夫帰喧嘩、人の家へはいってくれば、いけぞ
んざいな、なんという口のききようだ。これ、いきなりあぐらをかく奴があるか。親しき仲にも凡流ありという。
坐らなければ失礼だ。なぜあぐらをかくんだ」
「へえ、もうどうぞおかまいなく」
「お構いなくという奴があるか。しょうがねえ奴だ。なんだ、なんの用があってきたんだ。たいそうなけんまく
ではいってきたが……」
「へえ、すみませんが、ちょいと離縁状を二本ばかり書いておくんなせえ」
「馬鹿野郎、離縁状を二本書けという奴があるか。こういう馬鹿野郎だ。一本はわかるとしても、あとの一本は
何にするんだ」
「それァきまってます。一本は、かかあにやっちまうんだ」
「たいがい、かみさんにやるもんだが、二本というのがわからない。あと一本はだれにやるんだ」
「ええ、もう一本は家の婆ァにやるんで」
「あきれた奴があるもんだ。婆ァ婆ァといって、あれはお前のおふくろさんじゃアないか」
「冗談いっちゃァいけません。それァ気のきいた年増かなんかなら、お前のおふくろは、ちょいといい女じゃね
えか、なんて友だちにいわれても気がききますか、あんなしわくちゃ婆ア、みっとねえじゃアありませんか。こ
れからもありますが、おっかさんなんてといわねえようにしておくんねえ」
 「親でなければないでいい。そんなに腹をたてることはない。ふうん、
してみるとあれはお前のおかみさんのおふくろか」
 「いいえ」
 「それじゃア親類の婆さんか」
 「いいえ」
 「雇い婆さんか」
 「いいえ」
 「友だちのおふくろででもあるのか」
 「いいえ」
 「なんでいる婆さんだ」
 「いいえ」
 「なんでいる婆さんだというのに、いいえという奴があるかい、お前にとってはなんなんだ」
 「なんでもありません。お前さんも知っているだろうが、死んだ親父のねえ、
あの親父のかみさんでございます」
 「馬鹿野郎め、親父のかみさんなら、お前のためには、おふくろじゃアねえか」
 「ああそうですか。そういう見当になりますかねえ」
 「馬鹿野郎、火事とまちがえてやがら」
 「そうですかねえ、あれがおふくろですかねえ、うすみっともねえ」
 「みっともねえてえやつがあるか。女か年をとれば、みな婆さんになるもんだ。だいいち、親と名のつくものに、
離縁状をやるというやつがあるか。孝行をしたい時分に親はなしといってな、親はふたたびできない」
「あたりめえだア。子どもができちゃって、あとから親ができるやつがあるものか」
「それだから親を大切にしなさいというんだ。お前のような荒っぽい奴は心学というものを聞きに行くといい。
たちまち気をやわらげるものだというから、実はおれの知っている先生に、せんだって、お前のことについて頼
んである。さあ、ここで手紙を一本書いてやるから、これを持って行って心学をよく聞いてきなさい」
「へえ、ありがとうございます。けれども、ありゃア、溜飲にさわっていけません」
「溜飲にさわるといって、なんだと思ってるんだ」
「ええ、田楽でございましょう」
「田楽じゃアない。わからん男だなア。心学というのは、お前の心を修める学問だ。その相手の人物によってわ
かりよく説き聞かしてくれる」
「へえ、学問だなんて、あっしゃアまるで読み書きはできねえんだ」
「ただ耳で聞くだけでりっぱな学問になるんだ」
「へえー、そいつァ重宝だ。しかし行ったらすぐにやってくれましょうか」
「床屋じゃアなし、すぐもあともない。毎日遊んでおいでになるお方だから、親切に聞かしてくださるから、そ
れをよく心に留めて、先生にいわれたことを十のものなら八つは守るようにしてみなさい。お前が生まれかわっ
たような人聞になるから。そうすればおれも世話がいかある。けっして悪いことはいわねえから、さあこの手紙
を持って行ってきな」
「へえ、どこへ行くんです」
「この手紙に書いてある」
「書いてあるというけどねえ、いい年をして、この手紙のところへ行くんです、ちょいと見ておくんたさい、と
人に聞くのも気が利かねえ。意地の悪いことをいわねえで、ちょいと敦えておくんねえ」
「ははあ、なるほど読めんか。それは長谷川町の新道で、紅羅坊名丸先生とたずねればすぐわかる。
たばこ屋の裏だよ。すぐに行きな、これこれあとを閉めて行きなさい」
「なあに、いまじきに来ますから、閉めずにおくと今度きた時にあける世話がねえ」
「馬鹿なことをいう奴があるか」
手紙を一本もらいまして、長谷川町へやってまいりましたが、同商売が何軒もございます。
「さあたいへんだ、左側だとか、右側だとか聞いてくりゃアよかったな。同じたばこ屋がたくさんあって、わけ
かわからねえ。ここのたばこ屋の爺がねむたそうな面をして店番をしていやァがる……おい、爺さん」
 「はい、なにをあげます」
 「なにをいってやァがるんだ。人間を見りゃア商いをすると思ってやがる。そう、うまくはいかねえ」
 「なにかおたずねになるのか」
 「おたずねってわけでもねえが、ここいらになんとかいう奴がいるかえ」
 「ええ、なんとかじゃアわからん。名前はなんという方だ」
 「なんでもそれ、べらぼうになまけるとか、なんとかいう奴がいるだろう」
 「ハハハ、なまけ者がこの近所にもたくさんいますか、そんな名前の人はいない――うん、お前さんのおっしゃ
るのは、紅羅坊名丸先生だろう」
 「そのくらい知ってやァがって、さっきから空とぼけてかくしていやァがる」
 「かくすわけじゃアないが、お前のたずね方がちがってるんだ。そんならば、この裏をはいったつきあたりの格
子のはまった家だ」
 「そうかいありがとう、……今日は……親方……大将……おい、だれもいねえのか、なまけものの家はこっちか」
 「おやおや、どなたか知らんが、だれもおらんからこっちへおはいり」
「へえー、だれもいねえ所へはいったって、しようがねえじゃアありませんか」
「いや、わたしのほかはだれもおらんで、とりつぎに出る者がいないから、こっちへおはいりというのだ」
「じゃア、ごめんなせえ」
「おや、お手紙をご持参か、拝見しましょう」
「はやく見ておくんなせえ、気が短けえ人聞ですから、ぐずぐずしていると腹ァたててすぐ帰っちゃいますぜ」
「いや、お手聞はとらせません。お返事がいるか、なんだかわからんから、ちょっと拝見をいたして……
ほうほう……うん、ああさようですか、なるほどお前さんか、わたしの朋友の隣家にいるのは」
「へえ、お前さんでがす」
「なんだ、おかしな男だ。かねてお前さんの身の上は、うかがっていましたが、この手紙の様子では、
おふくろさんがあるそうで、親孝行を第一になさらんければいかんよ」
「へえそんなんでねえやつをひとつやっておくんねえ。ためになるやつを、親孝行親孝行てえやつは、
日に三度くらいいわれているんです。もう少しためになる代物をひとつやってみておくんねえ」
「いやこれは困ったな。おはなしは一度してみようか、心学というものはおもしろいのおかしいのというのでは
ない。喧嘩というものをなさる。この喧嘩をなされば、かならずお前のからだに損が第一にたつ」
「冗談いっちゃアいけません。損得を考えてそろばんをはじきながら、喧嘩をする奴はねえんじゃアございませ
んか。癪にさわりゃア今でも喧嘩ァするんだ」
「まあ、大きな声を出して、それではお前とわたしと喧嘩をしているようだ。近所へきこえてもみっともないか
ら、わたしのいうことばを耳だけで聞かんで、しかと腹までいれて聞いてください」
「腹で聞くてえと、ヘソの穴ですか」
「馬鹿なことをいいなさんな。ヘソでものを聞くやつがあるものか。耳で聞くにはちがいないが、
うわの空で聞いたんではいけない」
「まあ、なんですか。気が短けえんですから、急いでひとつやってみておくんねえ」
「気にいらぬ風もあろうに柳かな……おわかりですか」
「えーどうも感心なもんでげすな。恐れ入ったもんで」
「わかったかえ」
「いいえ」
「なんだな……柳というものはやわらかなものだ。南風が吹けば北へなびき、北風が吹けば南へそよぐ。風しだ
いになびくという。人間もそのとおり、心を素直にもてば、喧嘩口論もできんという道理だなア」
「冗談いっちゃアいけません。柳と人間といっしょにしちゃア無理じゃアござんせんか。柳は川端やお堀端には
えていて、それへ、そら、風があたりゃア枝かぶらさがってるから風のとおりに、ぶらんぷらんします。人間が
そんなあんばいに、川ッ端でも通っているとこへ風が吹いてくりゃア、川のなかへころがり込んじまうじゃアご
ざんせんか」
「いや、そうわからんではいかん。柳のとおりに心をやわらかくもてというのだ」
「だってお前さん、人間てえものは、虫のいどころのいい時と悪い時があります。癪にさわりゃア喧嘩もするじ
ゃアございませんか」
「いや、それがいかん。腹がたつ、これをおさえるのを堪忍という。堪忍のなる堪忍はだれもする、ならぬ堪忍
するが堪忍……堪忍の袋を首にかけ、やぶれたら縫え、やぶれたら縫え」
「南無阿弥陀仏……」
「これこれ、法談とまちがえてはいかん。お前には、並みのはなしではわがらんようだから、はやわかりのはな
しを、ひとつして聞かせよう。たとえば、お前が用たしに出る。店先きで小僧が水をまいている。お前の着物へ
水がかかった。腹がたつだろう」
「たちます」
「それが、小さな小僧がしたんだ。その小僧と喧嘩ができるか」
「それァ小僧と喧嘩はできません。小僧をその店へひっぱってって、なんだっててめえン所じゃア、こんな間抜
けな小僧を飼っておきやァかるんだと、いんねんをつけます」
「飼っとくてえやつがあるか。それでは風のある日に狭い横丁にはいる。風のために屋根から瓦がおちて、お前
の頭へあたったら痛かろう」
「それァ、生きてるから痛うございます」
「その瓦と喧嘩できるか」
「瓦と喧嘩するやつがあるもんか。やっぱり瓦っかけを持って、そこの家へねじこみます」
「なんだって、そこの家へねじこむ」
「てめえン所で、高慢な面ァしやァがって、屋根へ瓦なんぞのっけやァがって、どだい職人の手間を惜しむから、
少しばかり風が吹いてもおっこちるんだと、そこへどなりこむね」
「それでは人間がいたり、家があったりするから、食ってかかるところがあるが、たとえば、青山に大きな原が
ある、その大きな原へお前が用たしで通りかかる。ところが、にわかの雨、夏の雨は馬の背をわけるという。晴
天でいたやつがどうっとふってくる。雨具がないからグッショリぬれてしまう。小僧に少しの水をかけられて、
少し腹のたつようでは、よけいぬれたから、よけい腹が立つ道理だの」
「そりゃア、そうでさァ」
「そのよけい腹の立った時に相手はだれだ。だれを相手にお前、喧嘩をしなさる……どうだね」
「それはいけませんね、雨がふると思やァうちから傘でも持ってゆきます」
「持ってゆけばもともとぬれるきづかいはない。にわか雨だ、雨具がなくって、ぬれて腹がたつ。
だれを相手に喧嘩をする」
「もう、ようがす」
「いや、よいではわからない、どうする」
「どうするったって、それアいけません。そんなお前さん、手前勝手のことをいったって、
しようがねえ、まあ、ようがす、まけておきましょう」
「いいや、まけなくってもいい。その時にゃアだれと喧嘩をするよ」
「だれとするったって、相手のねえ喧嘩はできねえじゃアありませんか。あきらめてしまいます」
「どうあきらめる」
「そうつきあたりまで、聞きっこなしにしようじゃアありませんか」
「いや聞かなければいかない。どうあきらめるよ」
「どうもしかたがござんせん。人がふらしたわけじゃアないんで、天からふってきた雨だと思って腹をたてずに
あきらめてしまいます」
「それ、その道理だ。すべてその人と思わず天だと思ったらよかろう。たとえば、小僧に水をかけられたら、原
中で雨にぬれたものとあきらめる。人にこぶしで打たれたら、屋根からおちた瓦だと、こうあきらめる。なんで
も天より我が身体へかかる災とあきらめる。天の災と書いて天災と読む。なんでも天災じゃとあきらめれば、腹
をたてようと思っても腹が立つまい」
「ありがとうございます。お前さんなんぞは、顔はずいぶんまずいか、いうことだけはうめえこといいますねえ。
早い話がお前さんと喧嘩をしようと思っても、天だとこう思っちまうんですね」
「まず、そうだな」
「へえ、お前さんなんぞは、ちょいと素人見に天だと思いいいからねえ。上の方がまるくピカピカ光ってるから、
なるほど天みたいな面だ」
「まぜっ返しちゃアいけない」
「ありがとうございます。すっかり、これでわかっちまった」
「おわかりになったら、おもしろくはないが、雨でもふって川のない時には、ちょいちょい遊びにおいでなさい」
「またまいります。そうそう、いまの端唄みたいな文句を、もういっぺんやってみておくんねえ。柳がひっくり
返ったとかなんとかいうやつをやっておくんねえ」
「柳がひっくり返るやつがあるものか。気に入らぬ風もあろうに柳かな。むっとして帰れば門の柳かな」
「まだあるじゃアございませんか。堪忍がどうかしたとかなんとかいうのを、やってがくんねえ」
「堪忍のなる堪忍は誰もする、ならぬ堪忍するが堪忍。堪忍の袋を常に首にかけ、やぶれたら縫えやぶれたら縫え」
「ありがとう存じます。そいつをひとつお前さんのような声を出してやってみてえ。ねえ、けれどもあっしらに
はそういうもったいらしい声が出ねえからねえ。まあ、ひとつその堪忍のとこでもやってみましょう。さよなら」
「おいおい、いま、お茶をいれるよ。そう急に帰らんでもいい。茶をひとつのんでおいで」
「いえなに、お前さんが茶をいれねえと思うと、いままでなら、やい、はじめてきたんだ、べらぼうめえ、茶の
一杯くらいのませろというとこなんだが、いまの話を聞いてみると、お前さんが茶をいれねえと思やア癪にさわ
る。けれども天が茶をいれねえ、天災だと思やアなんでもねえ」
「アハハ、おもしろいことをいうお方だ。まあ、それを天災だと思えば、腹が立つまい、どうだい」
「ありがとうございます。おや、草履がかたっぼうなくなっちまった」
「いや、それはいかんの、悪い犬がいるから、ことによったら犬がくわえて行ったもしれない」
「ようございますよ。犬だと思やァ腹もたちますが、天が草履をくわえてったんだ」
「天が草履をくわえるやつがあるもんか」
「どうもありがとうございます。天災天災……さよなら」
「おい、いま帰ったぜ」
「いま帰ってきたじゃないよ。おっかさんがたいへんに心配しているよ。それはそうと、奥の熊さんの家で先の
おかみさんがきてね。まだ離縁の形がついていなかったとみえて、あとへ変な女がきているもんだから、ごたご
た夫婦喧嘩、いまもそういっていたんだが、お前さんかいようもんなら、けが人でもできるんだけれど、さいわ
いお前がいなかったもんだから、いま長屋中かかってすっかりしずめたとこなんだよ。ほんとうにいないでよか
ったといってたんだよ」
「なにをいやァがる。それじゃアひとつおれが熊のところへ行って話してきかせてやらァ」
「いけないよ、せっかく静かにおさまったのに、お前さんが行くと、また喧嘩が始まるよ」
「馬鹿なこというな。いままでとちがって学問ができるんだ。あの野郎にひとつ天災をくらわしてやる」
「なんだか知らないけれども、せっかく静かになった所へ行って、なにかまた妙なことをいっちゃアいけないよ」
「心配するなってえことよ。せっかく仕入れてきた天災を、こんな時に使っちまわなけりやア、廃物になっちま
うじゃアねえか。じゃアちょっと行ってくるぜ……。オー熊ッ」
「やあ八っつぁん、よくきてくれた。お前ンとこのおかみさんにたいへんに厄介になっちまって、今長屋を礼に
歩こうと思ってたところだ。まあ、あがってくんねえ」
「ようし、あがらなけりやア落ち着いてうまく話ができねえ」
 あがりこんだ八公、高慢な顔をして……、
「さて、こっちへ出てきねえ」
「おいおい、冗談じゃアねえ。いやに角ばらねえで、いつものとおりあぐらをかいてくんねえな」
「馬鹿なことをいうない。今日は学問だから坐らなくちゃアぐあいか悪い。もう少し前へ出ろ……てめえ喧嘩を
したってえじゃアねえか、どうもよくねえぞ」
「ハハハ、ありがてえけれども、お前に喧嘩のことでたびたび意見をしてやったことはあるか、お前に意見され
るなァはじめてだ」
「なにをいってやがるんだ。今までたァ違わァ……まずわたしが……」
「おい、冗談じゃアねえ、わたしてえ柄じゃアねえぜ」
「黙ってろ、もう少し前の方へ出ろ、もう二寸五分ばかり」
「なかなかむずかしいなァ」
「お前さんは……おっかさんが……あると……おっかさんであってみれば、親で女で、婆さんで、おふくろだ」
「なにをいってるんだ」
「黙ってろ……まずお手紙のご様子ではだ」
「なんだか、てめえのいうことはわからねえじゃアねえか」
「わからねえったって、おれだってまだよくわからねえ。親はたいしたもんだから、しかたがねえ。親は子より
も年が上だからどうもしかたがねえ」
「冗談じゃねえ、さっきからなにをいってるんだ」
「黙ってろ、親はおふくろだろう。親孝行をしなさいよ」
「親孝行といって、おれは両親なんざ、お前も知ってのとおりありゃアしねえ」
「不器用な野郎だなァこいつァ、なけりゃアどこかへ行って探して来い」
「ふざけちゃアいけねえや、ねえ親を探すやつがあるかい」
「しようがねえな。なにしろ相手が悪くちゃア、学問てえやつは、うまくいかねえ、……それじゃア親孝行はぬ
きにして、そろそろ喧嘩の方へとりかかるぜ。おれのいうことを耳で聞かねえで、ヘソの穴で聞くんだぞ」
「馬鹿なことをいうなってことよ。耳の穴を洗って、よく聞けってえことはあるか、へその垢をほじるとお腹が
いたくなる」
「黙って聞いてろよ……気に入らぬ風もあろうに……どうだ、うまかろう」
「なんだか少しもわからねえ」
「気に入らぬ風もあろうに、蛙かなよ。蛙は柳で、柳は端唄なんだからやわらけえや。南風はどうも、のぼせて
いけねえ、北風は寒し、東風は雨がふる」
「なにをいってるんだ」
「むっとして帰れば門の青柳にイ(唄になって)曇りイ……」
「おいおい、うたってちゃアいけねえ」
「ここんところどうも端唄とまちがっちまうとこなんだ。これから商売人の声を出すぜ」
「なんだい、商売人の声てえのは」
「堪忍の、……堪忍の――」
「大変な声だなア」
「堪忍の――奈良の堪忍大仏よ。なあ、そうじゃアねえか、そとでその奈良の神主と駿河の神主と喧嘩をすらア」
「たいへんな騒ぎだなア」
「あたりめえよ、なかに天神寝てござる」
「なんだか変だなア、それだからどうしろてえんだ」
 「黙って聞いてろよ。願人功主か袋を首にかけるだろう。米を入れるから、やぶけちまうじゃアねえか、
狭え横丁へ行けば、風が吹いて来る。屋根から小僧がころがり…落ちらア」
「あぶねえなア」
「黙っていろ、かんじんなところだ。まあ、青山の原へでも行くんだ。青山の原へ行くと、夏の雨は馬がふるからな」
「馬がふるてえことがあるかい。雨はたいがい水にきまってらア」
「水よ、水だがよ。小僧がその水をまくから、草履じゃア歩けねえだろう」
「ちっともわけがわからねえじゃアねえか」
「なにしろ、てめえがせんのかかあと喧嘩したってえが、せんのかかあと思うから、てめえが素人だ」
「へえ、――なんだと思うんだ」
「天が来たんだと思っちめえ。天だと思やア腹がたたねえ。天が来て天災だ」
「なーに、おれンところは先妻だ」


江戸時代に教えられた心学の内容とこの落語・・・内容的には大差なかったらしいです。
まじめにこんな事を言うてたんかいな・・・あほくさ。。。

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January 16, 2008

胴乱の幸助。

2008_1_15douran

ドラマの中でオチまで出ましたから、書きますが大変わかりやすいオチでした。
ところがややこしいんです。
胴乱については動乱と同義語か?と思ったらちゃいまんねん。
画像は煙草入れだろうと思いますがこういうのが胴乱・・・多分。
今のウエストポーチにストラップが付いてはるような・・・多分。

もう一つは人形浄瑠璃。
お半長右衛門については桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)

京都柳馬場押小路の帯屋長右衛門、隣家信濃屋の娘お半の伊勢参り下向と石部の宿でゆきあい、
同宿します。その夜、お半はお供に連れてきている丁稚の長吉にいいよられ、長右衛門の部屋へ逃げ込み
匿った長右衛門と契ってしまう。それを見ていた長吉は、腹いせに長右衛門が預かっている
正宗の刀をすりかえてしまう。その後、帯屋の隠居繁斎の後妻おとせ、その連れ子の義兵衛により、
長右衛門はおとしいれられそうになるが、長右衛門の妻お絹の機転によりことなきですむ。
しかし長右衛門は、お半の妊娠・正宗の刀紛失で死を覚悟してしまう。
そんなとき、お半は書き置きを残し桂川へ死に行ってしまった。。
長右衛門は、15~6年前芸妓の岸野と桂川で心中しようとして相手だけ死なせてしまっていることから、
岸野がお半と生まれ変わり自分を死へ招きよせる因果を感じて、お半の後を追い、
桂川で心中を遂げてしまう。

ほら、いやになったでっしゃろ。
それでも読みますか??ほな・・・・


胴乱の幸助(どうらんのこうすけ)


「おい」
「えっ……?」
「なにしてるね、そこで」
「わいか?」
「お前よりほかに、だれもいてえへん。お前にちがいないがな。………ええ若いものが、青い顔して、
道の辻でぼうーっと立って、みっともないかな。元気を出せ。おれが、いっぱい飲ましてやるわ」
「酒か……?」
「知れたことをいえ」
「あ、ありがたいな。銭はあるか」
「ない」
「人をなぷるな。銭がのうて酒が飲めるかい」
「やかましいいうな。当てのないことをいえへんわい。酒と肴か、むこうから転こんで来た」
「えっ、どこに……?」
「下をむいたかて、わからへんがな。ソレ、むこうの八百屋の表に立って、話をしてるやろ。
あのおやっさん……」
「ああ、あの赤ら顔で、でっぷりと太った……」
「知ってるやろう」
「知らん」
「あっさりといいやがったな。知らんて、この界隈に住んでいて、あのおやっさんを知らなんだら、
 大阪に住んでて、お城を知らんのもいっしょや。あの人やがな、有名な割木屋のおやっさんで、
 一名、胴乱の幸助という……」
「なんや? 胴乱の幸助というのは……」
「腰を見てみ。大きな胴乱をさげてるやろ。あのなかに、銭かいっぱいはいってあるね。
 あれか渾名となって胴乱の幸助。えらい人やで。徳島の生まれで、はじめて大阪へ出て来たときは、
 天保銭をたった三枚、もってきた。
 それが、うーんと働いて財産をこしらえて、いまではせがれに世をゆずっては、その日その日、
 小遺いのつかい放題、結構な身の上や」
「ええなあ。人間、だれしも、若いうちにいっしょうけんめいに働いて、年をとったら楽をしたいな」
「そうや。その心がまえがなかったらあかんのや」
「そないに働いたんやったら、あの人には、なんの道楽もないやろ」
「ところがひとつだけあるね」
「なにや」
「けんかや」
「けんか……? あの年よりがけんかするのか」
「いや、あの人は、自分はけんかせえへん。人がけんかしてる仲へはいって、仲裁して、
 酒飲ますのが道楽や」
「けったいな道楽やな」
「おもしろい道楽や。どんなけんかでも見のがさへん。まあ待った、このけんかはおれがあずかった。
 おれの顔を知ってるか? と、こないいう。けんかしてる奴が、
 へえ、あんたは割木屋のおやっさんだすな……、と、これがなによりもうれしいのや。
 ……なあ、お前らもおれの顔を知ってるのやったら、仲直りをしようやないか、
 こっちへ来い、というて、近くの料理屋へつれて上って、うんと酒を飲まして、
 それで自分はよろこんでるのや。
 子どもがけんかしてても仲へはいるで。やあ、みっともない、
 子どもだてらにけんかなんかするものやない。おれの顔を知ってるか。
 あ、あんたは割木屋のおやっさんだすな。おれの顔を知ってるのか。
 子どもでも、よし、わるいようにはせえへん、仲直りをさせてやる。
 お前ら、酒は飲まへんやろうさかい、こっちへ来い。と、饅頭屋へつれて行って、
 饅頭を、さあ、お前も食え、お前も食え、と、腹いっぱいに食わせる。
 いにしなには、大きな竹の皮に、また饅頭をぎょうさんつつませて、さあ、みやげに持って帰って食え。
 もう、けんかはするなよ……というて、よろこんでるのや。人間だけやないで。
 犬がけんかしてても、犬同士がみっともない、けんかするな。お前ら、おれの顔を知ってるか……」
「犬が割木屋のおやっさんというか」
「犬がそんなことをいうかい。犬が、ウーンとうなってる。うなるぐらいなら、
 おれの顔を知ってるのやろう。
 仲直りさせてやろう、こっちへ来い。お前ら、酒はよう飲まんやろう、
 飲んだらくっしゃみするさかい……。こっちへ来い、というて、煮売屋へつれて行って、
 生節を、さあ食え、さあ食え、と、三十六本は食わしよる。さあ、こうなったら、犬もしんどい。
 なにしろ、生節が、のどのところまでつまってあるのやさかい、とてもけんかどころやあらへん。
 ふわーっと、犬が、へたぱってしまいよる……。まあ、そういうおやっさんやさかいな、
 お前とわしとが、ここで、ガーンといくのや。と、おやっさんか、待った、と仲へはいるわ。
 割木屋のおやっさんだすな、というたら、よろこんで、仲直りにいっぱい飲ましてくれるわ。
 なあ、酒と肴が転こんできた、というのは、このことや。……どうや、やるか?」
「と、つまり、相談(あいたい)げんかか」
「そうや、そうや。相談げんかや。やるか」
「ヘッヘッヘッ。やろう、やろう、やろう、やろう!」
「大きな声を出すな。相手に聞こえたら、なんにもならへんかな。やるのやったら、
 お前は、あっちからこっちへ来て、わいに、ポンと当たれ。わいが、ぼろくそにいうさかい……、
 コラ、むこうむいて歩け。カス奴(め)!……
 するとお前が、……お前は、ちょっと、生たれてるほうがええな。そう、ぽんぽんとおっしゃるな。
 当たったのは、ご互やおまへんか……すると、わいか、この奴(がき)や、生たれるな、いてまうぞ!
 ……そしたら、お前が、ほたらどこまで行きますね? と、いうてくれ。そんなら、
 おれが、ポンポンポンと、お前の横つらを三つほど張るわ」
「えーっ。大きな手やさかいな、お前の手は。その手で、三つも張られたら、こたえるけど、
 まあ、酒が飲めるのやさかいがまんする。けど、はじめにいうておくで。張るのやったら、
 右の頬べたにしてや。左のほうはあかんで。耳のうしろに、できもんができてるやろ。
 これか、痛うて、ゆうぺ、夜どおしよう寝ずやさかいな。こっちがわにしてや」
「よっしゃ、そうしてやる。で、それから、お前か、えらい乱暴な、むちゃなととをする人だすなあ……と、
 わいの体へ、ガアンと喰らいつきにこい。そしたら、わいか、このはいてる下駄で、
 お前の顎を、ボンとけるわ」
「ごつい下駄をはいてるな。その下駄で、顎をけられたら、どないなる?」
「まあ、舌を噛むか、ふらふらっとするやろう。そのあいだに、わいか、お前のうしろへまわって、
 バーンとつくさかい、お前は、ベタッと、うつ伏せに倒れてくれ。その首筋を、わいがつかんで、
 ズルズルズル……」
「わい、やめとくわ。えらい目に会わされるのは、わいぱっかりや。そんなこと、やめや」
「そこまではいかへんわい。それまでに、おやっさんが来よる……。あ、いうてるうちに、
 おやっさんが歩きかけた。おい、はようこい、はようこい」
「行こうか」
「そんなことをいうてたら間に合わんがな。どんとこい」
「よっしゃ。行くぞ。よっしょ……あ、痛たたた……向脛をポンとけりやがるね。
 そないにきつうけらんかて、ちょっと当てたら、ええのやがな。もうちょっと、きつうけられたら、
 笑いもって死ぬところやがな。むちゃするな、当たりやがって!」
「それは、わいがいうことやがな。……当たりやがって。お前はどこのやつや」
「どこのやつや、て、お前とこのとなりや」
「なにをぬかしやがるね。なんで当たるね」
「なんで当たる、て、酒が飲みたいさかいや」
「なにをぬかしてけつかる。エイッ」
「痛い、痛い痛い痛い。こっちがわをなぐるな。耳のうしろへ、できもんができてるというて、
 たのんであるのに……」
「たのむもクソも……。痛い痛い痛い! わいのほうが痛い。耳へ指がはいる」
「穴があいてあるのやさかい、しようがないわい」
「まあ、待て。このけんか、おれがあずかった!」
「いやあ、おいでた」
「なんじゃて?」
「へえへえ……」
「なにが、へえへえ、や。なんや、大きな声でけんかをしやがって。なあ、おれが仲裁する。
 おれの顔を知ってるか」
「あんた、割木屋のおやっさんだすな」
「おれの顔を知ってるのかい。そんなら、このけんかはおれにまかすな」
「まかします。どんな人が仲へはいっても、ようまかさんけんかやけど、
 あんたにはいられては、まかさんというわけにはいきまへん。そのかわり、いうておきまっせ、
 おやっさん。このけんかは、普通のけんかやないねで。上等のほうやさかい……」
「なにをぬかしてよるね。けんかに、上等も中等もあるかい。え、まあ、おれにまかせ。
 ……おい、そっちの。お前、おれの顔を知ってるか」
「知ってます。あんた、割木屋のおやっさんだすな、トホホホホ」
「ええ若いものが泣いたりするな」
「これが泣かんといられますかいな。わたい、はじめにたのんでおますのやで。右がわにしてくれ、と。
 こっちがわは、耳のうしろにできもんがある、というてるのに、それに、できもんのほうを、ポンポンと……」
「おかしなことをいいな。けんかするのに、できもんまで調ぺてられるかい。
 そないに痛かったら、はじめから、けんかなんてするな。……まあ、そんなことは、あとで聞くわ。
 で、お前、このけんか、まかすのか、まかさへんのか」
「いや、まかします。まかすさかい、酒を飲ましてくれるか」
「おかしなことをいうなあ、こいつは……。まあ、仲直りは酒よりしようがない。
 さ、おれについて来い……。
 なんじゃ、うしろでボシャポシャと話声がするな。あ、二人で笑うてよる。
 おい、まだ仲直りもすんでえへんのやで。仲直りもせんうちに、仲良う話をしてけつかる、
 たよりないけんかやな。友達同士かいな……」
「ハイ、ごめんなはれや」
「おとしやす。毎度、どうもごひいきに……。どうぞお二階へ」
「そうか。二階へ上げてもらおう。……、さあ、お前らも坐れ。……あ、たいしたものはいらんのや。
 ほんの有り合わせでええさかい、ニタ品ほどと、銚子が一本。それも、階下でこしらえて、
 手が鳴ったら、すーっと持って上がってくるようにしてんか。話がつくまで階下へ降りていておくれ……。
 おい、二人ともけんかするなよ、みっともないやないか。……しかし、まあ、ようまかしてくれた。
で、きょうは、なにからけんかになったのや?」
「えっ、なんでやす?」
「いや、なにからけんかになったのや」
「いや、もう、そんなことは聞かいでもよろしい。もうあんたにまかしましたのやさかい、
ごてごていわんと……。大きなもので、ぐーっといきまひょ」
「おかしなことをいうな、こいつは。わけを聞かなんだら、話が……あ、そうか。
お前かいわんところをみると、お前のほうに無理があったな。
おい、そっちの。きょうはなにからけんかになってん?」
「えっ……。それが、なにもなかったので……」
「なにものうて、けんかになるかい」
「ところか、それがなったんで……。まことに、ふしぎ」
「なんのふしぎなことがあるかい。なんぞあったのやろう。はじめ、どないしてん?」
「はじめ、わたい、むこうで立ってたん……。そしたら、この男が、おい、というさかい、
 わたいも、おい、というた。なにしてるね? ……立ってるね。……立って、なにしてるね? 
 ……立って、立ってるね……」
「そんなたよりないことをいうてるさかい、けんかになるね。それからどうした?」
「元気を出せ、いっぱい飲ましてやる。銭あるか、というたら、それはない、というさかい、
銭がのうて酒が飲めるかい、というたら、やかましいいうな、酒と肴が転こんで来た、というて
……アッハッハッハッハ。なんでもかまわん。二人がわあーッっとしてたら、
わあーときて、わあーっとなって……ハッハッハッ」
「ちょっともわかれへんがな。しかし、酒がどうとやらいうたな。酒か、……うん、酒。酒の上のけんかやな。
そんなら、仲直りの酒を持って上がらせるで……。あ、できたか。こっちへ持ってきて。
そいで、手が鳴るまで、また、階下へ降りてて……。さあ、酒がきた。お前、その盃をとれ」
「へえへえへえ……おおきに。ヘッヘッヘッヘッ、おおきに」
「笑うな。おかしなやつやなあ」
「いや、笑うてやしまへん。よろこんでますのや。おやっさんの仲裁で、おおきに……いただきます……。
ウム、ちょっと、ええ酒を飲ましますな、この店」
「そんなことはどうでもええかな。はようその盃を、こっちへまわせ」
「盃を……? まわせというたかて、まだ、一杯だす」
「まわせ、こっちヘ!」
「へえへえ……さよか。この盃を、どないしますのや」
「おれか飲む。お前が注ぐのや……さあ、これで仲直りがすんだ。……ええか、おれはもういぬで」
「ちょっと待っとくなはれ、あんた。これだけ、けんかをまかしてるのに、銚子が一本、肴がニタ鉢……」
「なにをいいやがるね。酒が飲みたかったら、手をたたけ。階下から、酒も肴も、持ってくるわ。
お前らから、三文の銭も取ろうとはいわへん。勘定はおれのところへまわってくる。
おれが払うのや……。ええか、けど、飲んだ上でけんかするなよ」
「そんなら、おやっさん。いにしなに、折詰をひとつずつ持っていのうと思いますのやが……」
「あつかましいやつやな。まあ、そのくらいのことはかまへん。帳場へいうておくさかい、
まあ、ゆっくり飲め。けんかするなよ」
「ああ、おれも、だいぶ顔が売れてきたな。けど、あれぐらいのけんかでは、気がいかんなあ。
ピカッと光ったやつを抜いて、プスブスとやってるところへ、待った、とはいって、
額に傷のひとつもうけて、むこう傷のおやっさんとか、三日月のおやっさんとかいわれたいのやけど、
ねっからけんかしよらんな。けんかも不自由になったのかいな」
「お、おやっさんやおまへんか」
「お、辰か」
「ヘッヘッヘツ。けんかをさがしてなはるのか」
「あほなことをいえ。そんなものさがしたりするかい」
「むこうの辻で、ぎょうさん、若いやつが集まって、けんか:…」
「しめたー けんかしてるのか」
「いや、してえへんさかい、銭をやって、させ」
「あほをぬかせ」
 けんかをさがしなからやって来ましたのが、浄瑠璃のお師匠はんの家の前。
店の間が稽古場になってまして、奥に連中が五六人、かたまっております。
表は小格子で紙がはってございまして、顔は見えまへんけれど、稽古をしている声は筒抜けで、
表はいっぱいの、人だかり……。
「もうやれまっか」
「へえ、やりにくうて困ってますのや」
「そうだすか。ずいぶん、ながいことになりますさかいな。……さあ、しっかり、やってもらいまひょ。
まだ糸には掛けしまへん。……さ、おやりやす」
「へえ。……♪柳のばば、おしこかし……」
「ちょっと、ちょっと。待ちなはれ。なにをいいなはってん? ……柳のばば、おしこかし……
地獄の浄瑠璃やがな、それやったら。そんなむちゃをいうたら、どもなりまへんな」
「へえへえ……。♪柳の馬場、押しこげた}
「あ、こんどは、押しこげなはった。柳の馬場押小路、と、こないいえまへんか」
「いえまへんね。それかな」
「本を見なはれ」
「それが、いざ声を出すというだんになると、目がちらちらとして、字が目へはいりまへんね」
「難儀やな、ほんまに。そんなら、わてが、もういっぺんやってみますさかい、
しっかり、聞いていておくれやすや。ずいぶん、ながいこと、稽古してますのやさかい……。
♪柳の馬場、押小路、シャン、軒をーをーをー、ならーペしー呉服店、現金商い掛け硯、
 テン、虎石町の西側に、主は帯屋長右衛門、井筒に帯の暖簾も、掛値如才も内儀のお絹、
 テン、気のとりにくい姑にー、目をもらわじと襷掛け……、と、こういうふうに」
 あんたがやりなはると、なんでもないようでやすけど、それがなかなか……それがやれまへんね。
ハッハッハッ」
「よろこんでたらいけまへんがな。やってもらわなんだら……」
「じつは、お師匠はん。わたい、そこ、きらいだすね」
「またはじまった。あんた、稽古しかかったら、いつでも、ここがきらいや、どこがきらいや
 ……そんなら、なんで、これを稽古しかけなはったのだす?」
「へえ。奥に、わたいの好きなところがおますね。あの悪いばばが嫁をいじめますな♪親じゃやわい……
 と、いうて。そしたら、嫁が、♪あんまりじゃわいなあ……と、いうて泣きますな。あそこが好きですね」
 けったいなところが好きでんのやな。そこやったらやれますか」
「へえ。そこやったら、わたい、毎日、うちでやってます。へえ、十分、やれますね。
 好きこそ、ものの上手なれ、といいますわな」
「あほらしなってきた。そんなら、まあ、それをやってみなはれ」
「へえへえ、やってみまっせ。♪親じゃやわい、そりゃ、あんまりじゃわいなあ……と、どうでやす」
「好きこそものの上手なれ、やなんて、よういいなはったな、それで。なってまへんかな」
「♪親じゃやわい、そりゃ、あんまりじゃわいなあ……」
「あ、ちょっと、ましになりました」
「そうですやろ。♪親じゃやわい、そりゃ、あんまりじゃわいなあ……」
「モシ、ええ浄瑠璃がかかってますな。帯屋だすな。わたい、帯屋が好きだすね。
 けど、この帯屋のばば、こんなわるいばばは、ほかにおまへんな。嫁はんが可哀そうだす。
 帯屋のばば、なんとわるいばばやおまへんか」
「……えらい人がたかってるな。………えっ、なんやて、わるいぱぱ……? よし」
「あ、びっくりした」
「そないわるいか」
「わるいの、わるうないのて、聞いてみなはれ。こんなわるいぱば、おまへんで」
「♪親じゃやわい、そりゃ、あんまりじゃわいなあ」
「ハハン、もめてるな、ここの家は……。なにを、あんたがたは、表へ立って笑うてるのや。
 なかへはいって仲裁してやったらどうやいな。たよりない人ばっかりやな……
 どきなはれ、どきなはれ。ごめん!」
 ガラガラと入口を開けるなり、
「みっともないやおまへんか。たしなんだらどうや」
 大きなおやじがとぴこんできたもので、稽古人はびっくりして奥へ、転こんではいって、
 のこったのはお師匠はん一人……
「あ、びっくりした。へえ、おこし……。なんのご用で」
「なんのご用、やおまへんで。表で人が、ぎょうさん、笑うてるがな。あんた、ここの主か」
「へえ、さいでおます」
「主なら主らしいに、話をつけてやりなはれ。昔から、嫁と姑は仲がわるいときまったものや。
 仲へ立ったあんたが、舵をとってやったら、まるうおさまるのや。あんたで話ができなんだら、
 わしが話をするさかい、ええか。二人をここへ出しなはれ」
「ええっ、なんでおます?」
「二人とも、ここへ出せというのや」
「なにを?」
「なにを、て、いま、親じゃわいと、嫁をいじめた姑と、あんまりじゃと泣いていた嫁はんを、
 ここへ出せ、というてるのやがな。わしが話をつけてやる」
「そしたら、あんた、いまの親じゃわいで、おはいりになったん?」
「そうやがな。表で人が笑うてるかな」
「ハッハッハッハッ。それは、えらいことがまちごうてます。あれは、わてとこのことやおまへんね。
 京都のことで……」
「京都……! 阿呆か、お前は。京都のことを、ここの家で大きな声を出して、人までたからせて……。
 たよりない人やな。で、京都はどこのことや」
「いえ、あれはお半長だすのや」
「さ、お半長やなにかしらんが、どこのもめごとや」
「ご存知なけりや、しょうがおまへんけども、柳の馬場押小路、虎石町の西側で、
 主は帯屋の長右衛門という、その帯屋のうちのもめごとでおますのや」
「ちょっともめてるのやな」
「ちょっとどころやおまへんがな。えらいもめごとだす」
「そうか。どういうもめごとや。それを、あんじょう、聞かしてんか」
「いえ、お半長だっせ」
「お半長でもなんでもかまへんね。どういうもめごとや」
「いいえいな。長右衛門というて、帯屋の旦那がおますね。なかなかええ人で、女房がお絹さん、
 これがまた日本一の貞女だす。で、半斎というて隠居、これがまた仏のような人。
 と、こう、ええ人ばっかりがそろうてるのに、ながに一人、おとせというわるいぱぱがおますのや。
 こいつが後妻にはいって、儀兵衛という連れ子がおます。わるいばばでも、わが子が可愛いおますのやな。
 長右衛門をほうり出して、わが子を帯屋の後継にしようと、そとでいろいろと魂胆がおますのや。
 長右衛門に、ひとつだけわるいことがある、というのは、真隣に、信濃屋というて、
 そとに、お半さんというてな、十四になる娘がおますね。
 そのお半さんが、伊勢まいりをしての帰りに、泊ったのが石部の出刄屋という宿屋。
 長右衛門さんも、江州の長浜へ商売用で行って帰りに泊ったのが石部の出刄屋。
 そとで二人が顔を合わせて、おう、お半ちゃんか、おじさまか……と、縁というのだすかいな。
 ええ仲になってしまいましたん……」
「いかんな、それは。長右衛門という人も、えらい、はしまめやな。年はいくつや」
「そうだすなあ。年は四十に近いというさかい、三十八、九だすかいな」
「三十八、九もなりやがってからに……。で娘は、なんぼとがいうたな?」
「十四でおます」
「十四……! 十四やそこらの小娘をぱ、長右衛門がうまいこと口説いたのやな」
「そうやおまへん。これは、娘のほうからもちかけて……」
「娘のほうから……! ませた娘やな。で、どうした?」
「ところが、因果と、お腹がぼてれんときましたん。そこで、ごたごたともめて……」
「もめるのはあたりまえや。な、こんなことをほってはおけん性分や。これから京都へ行って、
 話をつけてくるさかい、所をくわしいに書いてんか」
「えっ、あんた、京都へ行きなはるの」
「あ、京都へ行く」
「ハッハッハッハッ。……ちょっと、連中さん。この人、京都へ行くというてはるの、どないしまひょ」
「やりなはれ、やりなはれ。おもしろい、やりなはれ」
「やりまひょか……フフン。へえ、くわしい所を書きましたで」
「あ、おおきに。こう、くわしいに書いてもろうたら、わかるわ。
 これから、すぐに京都へ行ってこう。さいなら」

  この時分、京都と大阪のあいだに汽車が開通したばかり。それまでの乗り物はと申しますと、
 れいの三十石でございますが、この三十石のほうも、やはりのこっておりまして、
 おやっさん、大阪の八軒家から船にのって、京都の伏見へ着く。あっちでたずね、こっちでたずねしながら、
 ようようやってまいりましたのが、虎石町の西側。
「立派な家やな。ごめんなはれや」
「どうぞ」
「あ、帯を買いに来たのとちがうね。ちょっと、話をしたいことがあってな、大阪から……」
「あ、さよでおますが。どうぞ、お座布団を……。コレ、茶(ぶぶ)をもっておいで。どうぞ、ご一服を……」
「うん、一服さしてもらいます。聞くところでは、お前さんのとこ、この節、家がごてごてともめてるそうやな」
「それはなんぞのまちがいで……。わたしのとこは、いたって円満で……」
「かくしなはんな。かくしてもあかへん。あんた、ここの番頭さんらしいな。そうやさかい……、
 忠義な人やな。主人の恥を明るみに出しともない。あんたの、その腹は、わかるで。わかるけど、
 なんぼがくしても、あかへんのや。大阪から、すっくりと調べ上げて、来てるね。わしも、
 この話をつけに来たのやけどな、話がついたさかいにというて、金のひとつももらおう、
 なんて、そんな卑しい心やないのやさかい、………ええか。こんなことは、
 ざっくばらんに、ありのままにいうてもらわな……。なあ。
 まず、長右衛門さんに、ここへ出てもらおうか」
「なんですね? その長右衛門さんというのは」
「ここの旦那。長右衛門やろう」
「あ、やっぱりまちがいや。うちは源七でおます」
「なんでかくすね。……あ、そうか。長右衛門さんを出せんというのやな、ちょっとわるいところがあるさかい。
 よし、そんなら、こうしよう。お内儀さんに出てもらおうか、お絹さんに。
 これは日本一の貞女や。どこに出したかて、恥かしゅうはない。お絹さんに出てもらおうか」
「いや、うちはお雪さんといいますのやが」
「なんで、そないに、かくすね。そんなら、こうしょう。ここの話はあとへまわすわ。
 ちょっと、隣へ行ってんか。隣は信濃屋といて、そとに、お半さんというて、十四になる娘があるやろ。
 その娘と、ここの長右衛門さんとが、ええ仲になって、お腹かぼてれんとなった……、
 これが、いちばん、話がしにくいと思うのやかな。ちょっとすまんけど、お半さんを、ここへ呼んで来てんか」
「ちょっと待っとくなはれや。わたしもな、最前から、あんさんのおっしゃることが、
 なんや、耳についてますのやで。こうっと……長右衛門にお絹に信濃屋のお半……。
 アッハッハッハッハッ、耳についてあるて、アッハッハッハッ……。
 なにをいうて来なはるのやいな。アッハッハッハ、真面目な顔をして、アッハッハッハ。
 アーハッハッハッハ。ようそんなあほなことをいうて来なはったな。あんた:…ええっ! 
 ……どこから、そんなことを聞いて……? 大阪から京都まで……。
 ようまあ、そんなことを……。
 ええお年をして、あんた。あんさんのおっしゃるのは、それは、有名な話だすがな。
 あんた、だれでも知ってる騒動だっせ。あんさん、これを知りなはらしまへんのかいな」
「知ってるさかい、仲裁に来たのや」
「なにをいうてなはるね。あほらしい……。ようそんなことを、ええお年をして、真面目な顔で、
 いうておいなはったな。アッハッハッハッ、わたし、お腹が痛うて、アッハッハッハ。
 あんさんのいいなはったのは、それはお半長だっせ」
「そうや、お半長や。お前のところやろう」
「うだうだ、いいなはんな。あほらしい。そのお半も長右衛門も、とうの昔に、心中してしまいましたで」

「えっ、死んでしもうたか! しもうた! 汽車で来たらよかった」


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January 15, 2008

小正月。

2008_1_15moti

小正月だと思ったので簡単な雑煮を作ってもらったのですが
完全に私の勘違いでした。
小豆のお粥だったのか?
しないなぁ、そんなこと。
まぁ、小豆は昨日の玄米ご飯に入っていたからもういいや。
しかし、いただいた新潟のおもちを使ったのですが
うちのお雑煮に四角の切り餅が入ったのは結婚してから
初めてのことです・・・画期的!!。
お餅はおいしゅうございました。

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January 13, 2008

おみくじ。

2008_1_13kuzi

私が好きな神社ではおみくじが30円。
10円玉をジャラジャラ持って参詣に行く。
目指すは「凶」のおみくじ。
今までの人生で見かけたことがない「凶」が欲しい。
大吉・・・・・9個。
中吉・・・・・1個。
小吉・・・・・1個。
吉 ・・・・・4個。
末吉・・・・・1個。
16個買ったらしいが、さすがにここでやめた・・・。
完全にバランスを欠いていると思う。
興が冷めた・・・・・(*_*)。

ラッパの練習が終わって呑んで電車に乗って一瞬寝ただけなのに
目が覚めたら乗り越していた。
帰宅できる上りの最終電車は出たあと。
歩くのは健康にいいなぁ~とか思いつつ、吐きそうだった。。。

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January 12, 2008

二人ぐせ。

よその落語の師匠がやってると思っていたら、草々がやりましたね。


   二人ぐせ


 無くて七癖という言葉がありますが、私は癖は無いと言う人でも、七つぐらい癖がある。
自分ではみな気がつきませんのですな、それを。
昔から噺家のほうはよういろいろ見てまして、酒ぐせなんか、怒り上戸や泣き上戸だけやな
しに、左官上戸やとか、仏上戸やとかいろんなことを言います。
畳の目をあの、言いにくい話をする時に、こうやってむしる人がございます。
あのちょつと毛羽立つてるというのは、なんかこうむしってみたいような誘惑を感じるもんでして。
 「どうも、あんなりになっておりまして……いえ、もっと早う来なんだらいけまへんのに、
ちょっとこう、……敷居が高なると、だんだん、だんだん、もう、……心ならずも、
失礼してしまいましてなあ、今時分になつてから、こんなこと言いに来るやなんて、
……誠に申しわけないんでんねやけど、もう一ペんご無理を……」
 「もし、もし。もうし、そう畳むしってもろたらかなわんなあ、あんた。
これ、昨日表替えしたとこやがな」
 「ああさよか。なんやむしりにくいと思たんや」
 苦労してむしってる人があったりしますが、この頃は冬でも、火鉢というものを見んようになりました。
以前は寒なりますと、どこのご家庭にも火鉢がございましたが、あそこへ座つて、
こう火箸を持ちますと、これが十人十色でしてな。がふとこう突き立てて、こうやつてしゃべつてる
人があるかと思うと、もう絶えずあの中をいらいたおしてる人がある。
灰の中をごじゃごじゃ言いながら、サーッとかきまわすといろんな物が出てくる。
やってみるとわりと楽しみなもんでな、あれ。出てきた物、石は石でこつちのほうに積み上げまんねん、
で、たぱこの吸いがらは吸いがらでこっちへ。ガラスはガラス、金物類は金物類、
なんや紙屑屋へでも奉公してたんですな、あれ。分類が一段落すると、
燃えるものはみな中へこう放り込んで燃やしてしまいまして、今度はきれいに積み上げて、
よういこったある火を、一ぺんこうくずしてしまいまんねん。自分の気に入るように積み直さなんだら、
得心がいかん。がッと穴を掘りまして、大きそうなやつで、まず土台の基礎工事をこう始める。
だんだん上へ小さいやつを積み上げて、きれいに積み上げてしまうと、またちょつと
気に入らんところが出てきて、
 「このへんがちょつと……ああ、くずれた」
てなもんで、積んではくずし、くずしては積み、あんじょういこしたある火を消してしもて、
 「かなわんねや、あいつが来たら、ええ。火をいらいたおして、消してしまいよる。火箸隠してしまえ」
 火箸を隠されてしまうというと、もう癖になつてるもんやさかい、勝手に手が……
 「寒いこっちやなあ、おい、ええ。いやいや、もうこのと
ころ暇でな、商売も‥…ああ、ちょつとこのところ、……商売もうまいこと行つてないもんやさかい、
もうええわいと思てな……ああ:…エヘッ、いや、なんでもないねやけ
どな。アー、このォ、ンー、あれもな……エー」
 火箸が無かつたら、物言われへん。うらめしそうな顔をして、火鉢の中のぞき込んで、
なんやブツブツプツブツ言うてるさかい、何を言うてんのかいなあと思たら、小さい声で。
 「この火をこっちへやって。あの炭を上へ乗せて・:」
 口で動かしてる奴がある。もう、こうなると正気の沙汰やおまへんが、誰でも自分では気がつきませんな。
喫茶店なんかへ行つてみてましても、コーヒーの飲み方でも十人十色です。
中にはあのスプーンをこう、かき回してカチャカチャ、カチャカチャ音たてて、また飲んでは、またこう
やつてる。中にはあのストロー、ジュースなんか飲む時のあのストローを包んである、あの紙がありますな、
状袋みたいな紙。あれをこうくしゃくしゃーとこう丸めてね、あれでこう爪の間の掃除したりしてる奴がある。
中には、こうあれで丁寧にこよりをこしらえて、それをこう指ヘキリキリ巻いてね、
指輪にしてしばらくこう眺めて、ほいで、こいつをこう放り出して、またこう灰皿へ放り込んで、
マッチすって燃やしてしまうなんて、手数のかかる癖がありまっせ。
 癖というもののおもしろさは、自分で気がつかんところ
にあるらしいんですが……、


O「居てるか」
△「おお、こっちへ入りいな」
O「ああ、もうこのところなあ」
△「忙しそうやな」
O「いやあ、ひまでもうかなわんのや、もう。どやひと つ、パー。とこう飲めるてなことないかいな、
今晩あたり、ええ、一杯飲めるてな、なあ、おい。どやひとつ、 こう一杯飲めるてなこと」
△「またやまたや、もう。ほんまにお前ぐらいつまらん癖持ってる奴はないな」
O「何がいな」
△「あのな、人の顔さえ見たら、飲める飲めるて、もうそういうことあんまり言わんほうがええで。
世間一統不景気や言うてんのに、ええ、つまらん、つまらん言うてる世の中やのに」
O「さあ、不景気やさかい、バァーと景気直しに飲めることないかいなと、今晩あたりウワァーとこうなあ、
一杯飲めるてな口」
△「お前その、家へ入って来てな、まだ二言か三言しか言うてへんのに、
飲めるという言葉を何べん言うたと思う。じきに人の顔さえ見たら、晩に飲める、
一杯飲める、今日は飲める、飲める話ないかとか言うて、人間が卑しい見えるで。
わしはお前という人間を知ってるさかいええが、知らん者が聞いたら、あいつまあなんという
 口の汚い、卑しい男やろうなあてなもんや。飲める、飲めるて、……人にもいやがられる、
つまらんで、それは」
O「ああそうか」
△「そういうつまらん癖やめなはれな。そやのうてさえ、世間一統、つまらん、つまらんて言うてんねん。
飲める、飲める、もうそらいややで、そんなんは」
O「ほう、なるほど、いや、そら言う、言う。わしは言うけどなあ、そう言うお前はんにかて、
その……あんまり良え癖やないな、その癖」
△「何が」
O「お前の癖や。つまらん、つまらんと言うのん」
△「ええ」
O「飲める、はまだ景気が良えで。わあーッと飲めるてな話ないかというのは景気が良えがな。
お前その、むつかしい、せんぶり飲んだような顔して、つまらん、つまらん。……いやな気がするで」
△「ああ、そうかなあ、……言うか」
O「言うがな、わからんか」
△「いやあ、わしかてそら別に考えて言うてるわけやない。何の気なしに言うてることでなあ、
ほいで人の気を悪さしたら、こらほんにつまらん話」
O「まだ言うてるがな、お前」
△「ああそうか、ほんに言うなあ、これは」
O「どや、お前がそうつまらん、つまらん言うのも癖なら、わしの飲める、飲めるも癖や。
お互いに直し合いしょうか」
△「長年の癖やがな、そう簡単には直らん」
O「ただでは直らんがな。どやひとつ罰金取ろう」
△「罰金て」
O「さあ、一回言うたら千円の罰金というのはどや」
△「ええ、つまらんと言うたら千円」
O「ああ、そや。その代り、わしが飲める言うたら千円出すがな。どや、
これぐらいのことをやったら直るかもわからんやろう」
△「なるほどなあ、千円となったら、考えるで。うかっとつまらんと言うたら千円や。千円取られたらつまらん」
O「出しいな」
△「ああ、まだ決めてえへん、まだ決めてえへん。なるほど、こら直るかも」
O「さあ、それぐらいのことやらな直らん。決めよ、決めよいな。友達てなものは、
たまにはこんなこともやらなならん。ほんならな、この湯呑、これを土間へわしが、バーンと叩きつける。
これが合図やで、いくさかいな、ええな。一、二の……」
△「おい、ちょっと待ち、待ち…:アァ、割ってまいやがった。何をするのやいな、
ほんまにもう。こんなもんお前、キッカケぐらい手拍子打ったかて決められるんやないかい。こんなもん、
粉々になってもて、お前、怪我するがな」
O「こんな安い湯呑」
△「安い湯呑でも、これ数が揃たあんのやがな。一つ割ったら端になるがな。ほんまに、つま…:」
O「半分言うた、五百円」
△「何を言うのやいな。言うてえへん、言うてえへん」
O「エー、まあまあええ、まあまあええ。もうこれからは取るで。もう、そうぼやきないな、湯呑の一つぐらい、
 これで癖が直ったら安いこっちゃがな。‥‥‥ところで、こないだ聞いたんやけど、あれほんまかい」
△「何がいな」
O「なんや、伯母はんが死んで遣産が流れ込んできたとか言うて、皆言うてるでえ。
うまいことやったなあと言うて」
△「言わんといてくれ。あれだけはなあ、こないだから、わしは腹立ててんのやがな。
あの伯母はんも伯母はんや。何にも言わんかてたった一人の伯母と甥や。
わしはな、病気になったんやさかい、できるだけのことはさしてもらおうと思てんのに、
えらいお前に迷惑をかけるなあ。その代りわしが死んだら、遺ったもの、たいしたことないけど、
それすっくりお前にやる。お前はんのもんやさかいらゅうて、さんざん気ィもたしやがって、
遺産がどうのとか、遺ったもんがどうのとか言うて、ええ。
そんなこと言いなちゅうたんや。わしは別にそんなもん当てにして世話したわけやないのやけども、
さあ、死なれてみたら、何もあるかいな、お前、ええ。土地は自分の土地やあれへんのやがな、
あの家かて、そんなもんお前なんぽに売れるかい、借金とベタベタやがな。
なんじゃかんじゃして、結局……これや、ええ。葬礼代だけわしが持ちや。
ほいで世間にはなんや儲かったように言われてお前、こんな、つ……」
O「何。つ、なんや」
△「つ、つばめの合わん話はないと」
O「ごまかすな、ごまかすな、お前、ええ、苦しいこと言いやがって。……ところで、こないだ聞いたんやが」
△「もうおね、もう、なんじゃろと言わしにかかってけつかる。当分話せえへん、帰れ、帰れ」
O「アッハッハァ。ほなまた出直してくるわ、さいなら。
 アー、惜しかったな、もうちょっとで言うとこやったんやけどなあ。
ええ、なんとかこう、あいつに言わして千円取る工夫はないかいな。なあほんまに、
あいつかてこっちのを言わそうとするさかいなあ。わしから言い出して、うっかり
こっちが先ィ言うて「千円取られたらつまらん…:ああ、わしはかまへんのや、
わしはかまへんねん。ああ気にするなあ、こうなったら。
そうそう、ええ、小林さんとこや。この人はまた、こういうことに知恵が働くのやで。はあ、
ここでらょっと一ペん知恵借ったろ。エー、小林さん」
小「おう、おう。こらめずらしい人が、こっちィお入り」
O「いや。ちょっと今日はあんたに知恵借りに来たんです」
小「知恵借りにて何やいな」
O「実はな、わしの友達の辰つぁんという男が、こいつが なあ、妙な癖があるんですねん。
なんぞ言うたらつまらん、つまらんと、こう人の顔さえ見たらつまらん、つまらんとこう言う。
わたいはまたな、飲めると言うのが癖で、今日は飲める、晩に飲める、一杯飲める、これが癖で。
で、わたいが飲めると言うたら千円出す。その代り向こうがつまらんと言うたら千円こっちへ取ると、
こういう約束でな、罰金千円ちゅうことに決めたン」
小「ほう、おもしろいことを決めたんやな」
O「はあ、そいで、今ももうちょっとで言いかけたんやけど向こうも、用心して言いまへんのや。
わたしから言い出しといてな、こっちが先に言うて取られたら、こらもう情けないさかい、
なんとかその向こうにこの、つまらんと言わす工夫はおまへんやろかな」
小「おもしろいことを決めたんやな。フーン、そらまあ無いこともないがなあ、そうやな、
つまらんと言わしたらええのか」
O「そうでんね」
小「そんならお前はんうちへ帰って、もっと汚れてもええような身なりに着替えて、
ほいで手にこう糠をつけてな、そのへんにもちょっと糠をつけとくほうがええわ。
 ほいで向こうへ行て、トントン、トントンと調子よう言わなあかんで。田舎の、
伯母はんとこからでも、まあなんでもええわ、大根を百本もろた。
一ぺんにこないぎょうさん食いきれへんさかい、漬物に漬けようと思う。
家中を探したんやけど、漬物の大きな桶が無い、醤油樽の五升樽が一つだけ出てきたけども、
五升樽一つに百本の大根、つまろうかなあと、こうもっていってみいな。そら、つまらんとこないなる」
O「ああ、なるほどねえ。五升樽一つに百本の大根つまるか、つまらん。
こらええわ、おおきに、おおきに。ああ、早速やってみますわ」
小「ああ、まあお茶が入ったさかい飲んで行きなはれ」
O「いや、いや。お茶は後にします。そやそや、千円取ったら茶菓子に羊羹かなんか買うてくるさかいな、
良えお茶を入れといとおくなはれや。頼んまっせ。アッハッハッありがたいなあ、ええ。
汚れてもええような格好に着替えてと、ほいでこう、ぬか、ぬか、ぬか、糠でこう汚して、あーア、
千円儲けようと思たら、並大抵やないでこれ。向こう行て、これでトントン、トントン、トーン
ともっていかなあかんのやな、こらどうも……おーい、辰つぁん居てるかア」
辰「なんやねん、バタバタと」
O「あのな、トントントーンといくぞ」
辰「何がトントントンやねん」
O「あのな、田舎の伯母はんから、大根百本もろたんや」
辰「お前とこ田舎に伯母はんなんかないやないかい」
O「いやあ、あのそれが、あるんや、そう、とにかく田舎の親類から」
辰「どこの田舎や」
O「どこでもええがな。とにかく大根百本もろたんや」
辰「うまいことしたなあ、ちょっとくれ」
O「あのなあ、らょっ、らょっ、ちょっと、ここはトントントン」
辰「あんなことばっかり言うてんねや。どないしてん」
O「とにかく大根百本もろたんや。一ぺんに食いきれへんさかい、漬物に漬けようと思うんやけどな、
大きな漬物の桶がない、醤油樽の五升樽が二つだけ出てきたんや。
五升樽一つに百本の大根、つまるかな」
辰「何を言うとおんのやいな、お前。大根百本というたら、どんな細い大根にしたところでだいぷのかさやで、
お前。そんなもんが五升樽一つには、つ……。‥‥このがキ企らんで来やがったな」
O「なあ、おい、五升樽二つにな、百本の大根つまるかな」
辰「入りきらんわ」
O「入りきらん……無理に押し込んだら」
辰「底がぬける」
O「底がぬける……あのなァ、田舎の親類から大根百本」
辰「あけへん、あけへん。糠だらけになって、まあ大層かけて来てくれたけど、あかんわ、
もうちゃんとこっちは気がついてんねん。もう、もう去に、去に。えらいご苦労はんやったけどもな、
今日はお前らの相手してられへんねん。おい、早うちょっとあの紋付出してんかいな」
O「紋付てなんや」
辰「兄貴とこへ婚礼でよぱれてんのやがな」
O「おお、兄貴とこ婚礼か、今晩、一杯飲めるな」
辰「千円出しい」
O「ああー」
辰「ああやあらへんがな、言うたやろ出さんかいな」
O「そんなアホな」
辰「何がアホなや、出さんかいな」
O「ンー、ンー、何しに来たんや、これそんな。ンー、ンー、千円」

辰「往生際の悪い奴や、なんという顔をしてんねや。こっらへ貸せ、こっちへ貸せ。
ええ、アッハッハッ、おおきに、おおきに。おい、紋付なんか要らんで、要らんで」
O「行くのんと違うのんか」
辰「今のはウソや」
O「ウソー。……あの、田舎の親類からな、大根百本」
辰「去ねッ、アホ」
               1
0「むかつくなあ、ほんまに。元の入れ損やがな。小林さん」
小「おお、お帰り。良えお茶入れたが羊羹」
O「羊羹どころやないのや。羊羹どころかえらい目におうてるがな」
小「どないしたんや」
O「向こうへ行てな、トントントーンと行こうと思て、田舎の伯母はんとこから大根百本もろたんやと
言うたら、お前とこ田舎に伯母はんなんかないやないかい、いやあ、田舎の親類から言うたら、
どこの田舎やて……、あいつうちのことよう知ってるさかいな、トントントンといけしまへんのやがな。
とにかく大根百本もろたんや言うたら、ちょっとくれ、なんか言うて、もう腰を折るも
 んやさかいな、ようようまあ五升樽ーつに、百本の大根つまるかなあと言うたら、
何を言うねんお前、大根百本というたら大分のかさやぞ、五升樽一つには、つ……ちゅうて、
しばらくこっちの顔をじーっと見てたかと思うと、入りきらんと。
……どうです、敵は卑怯にも入りき らんとこない言う。無理に押し込んだらと言うたら、底
 がぬけると言うて、どないしてもつまらんとは言いまへんのや。お前らの相手してられへんのやがな、
紋付出せえとこない言うさかい、何やねんと言うたら、兄貴とこ婚礼で、今晩よばれてんのやがな。
ウワァー杯飲めるなちゅうて、わいが千円取られた」
小「何をしてんのやいな。やりに行たようなもんや、それやったら」        
O「さあ、やりに行たようなもんや。むかついてかなわん、なんとかこれの仕返し、
もう一ちょうそのなあ、工夫は」
小「そらまあ、無いこともないけどな。そらもうやめとき、向こうのほうがだいぷ役者が上手やで、
そら。わしゃ向こうへ羊羹食べに行く」
O「そんな阿呆なこと言いなはんな。そんな、あんたを頼りにしてまんのやがな。
な、な、なんとかしてえな」
小「さあ、わしも、皮引きゃ身引くで、なんとかしてやりたいけどもな、今行たってあかんで、
向こうは用心してるがな。ええ、そやさかいちょっと日を改めたほうが」
O「そう、日を改めたらて、今晩くやしいて寝られへんがな。なんとか今日中に」
小「今日中に……、人間好きなものには心を奪われるとい
 うことがあるが、その人何か特にこれが好きてなものは
 無いのんかい」
O「それやったらな将棋が好きでんねん。親の死に目にも 会えんと言うのは、あいつのことやろうと思うな、
好きなだけにまた強い。ええ、わたいら角一枚か飛車一枚、 向こうに片馬おろしてもろても、
まあめったに勝てまへんな」
小「そうか。ああ将棋、ウム、それはええ、それは。しかしな、これはこっちから乗り込んだらあかんで。
向こうから来るのを待たないかんのやが、向こうからお前はんとこへ来るてなことはないのんかい」
O「日が暮れにな、あいつ仕事は居職でっしゃろ。済まし
 たらずーっと風呂へ行きまんねん、風呂屋へ。家の前通らんならんさかい必ず声掛けて寄って行きまんねん」
小「あっそれがちょうどええ。その時、その時。ちょっと見てなはれや。この将棋盤、
詰将棋をあんたが考えてる。この詰将棋らょっと変わった詰将棋でな、
ちょっと見てなはれ。エー、まずこの真ン中に王さんが一枚だけ、はたは何にも無しや。
よう見てなはれ、ちょっと変わってる。エー、つめ駒が角と金と歩が三枚や。
アー、角が入ってるだけにな、何かこれ詰め手がありそうに思うけれども、これは実はインチキで、
詰め手は無いねん。どんな名人が来ようが八段が来ようが、これはもう詰めようの無いやつや。
それをお前はんが前において考えてるねん。向こうが声を掛けても、二、三べんは聞こ
 えんふりをして、一生懸命この盤に気をとられてるという芝居をせないかんな。何度か呼ばした後で、
初めて気がついたような顔をして、ちょっと考え事をしてんねんとこう言うねん。
何や知らんと見たら、お前、向こうの好きな詰将棋や。
ようほっとかんわな、ほう、どれどれわしにやらしてみいと言うて、盤の前へ座ったら占めたもんや。
一生懸命考えても、これはインチキやさかい、どない考えたって詰むわけはないわ。
で、向こうがせんど考えて、こらあかんなあという顔をした時分に、そば から呼吸をはかって
どやつまるかなと、こうもっていくのや。ほなつまらん、とこない言うやろ」
O「いろいろと手があるもんでやすなあ。なるほど」
小「だいたい将棋は、詰むとか詰まんとか言うて、詰まるとか、詰まらんとかは言わんのやけど、
そこは口ぐせや。こっちから、つまるかなともっていたら、つまらんと、たぷん言うやろと思う」
O「言いますわ。なるほど、こらきっちりかかりよるわ、うむ。へえ、将棋盤は家にもおます、
へい、安物のな、悪いやつやけど」
小「いやいや、もうそら特別のことはせんほうがよろしい。
いつもの将棋盤で考えてるほうが向こうもひっかかりやすいさかい」
O「へえ。ほんなら早速やってみまっさかい。ありがたい、ありがたい。うわあ、なんじゃろと
手のあるもんやなあ。エーエーと、おい、辰つぁん、まだ風呂へ入りにけえへんか」
女「何を言うてんのやいな、まだ日が暮れてえへんやないかいな。あの人、日が暮れにならなけえへんがな」
O「そうやな、ちょっと今日は日が暮れるのが遅いような気がする。エー、
王を一つ真ン中へ……ええ、角と、金と、ああそうか、王さんを真ン中へ置いて、角、
金に、歩が三枚。エヘッー、これで考えてるうちに、あいつが来たらこっちのもんや。
ほんまに変わってるなあ、この詰将棋は。……辰つぁん、まだ風呂入りにけえへんのかいな」
女「まだ早い言うてんねん」
O「なんで今日はこない日が暮れんのやろなあ。早よ暮れやがったらええのに……
アァ、来た、来た、来た。何にも知らんと来やがったがな」
辰「おーい、風呂へ入りに行こか。風呂入りに行けへんのんかい」
O「へっ、二、三べん聞こえん顔をする」
辰「何してんねん」
O「……もう一ペん呼べ」
辰「風呂へ行こかと言うてんのやがな」
O「初めて気がついたような顔をして、おお、ちょっと考えごとをしてんね」
辰「何をぬかしとおんね、こんなとこへおさまりやがって。あれっ、将棋盤出してるとは珍しいやないかいな、
 なんやて、詰将棋。おい、おい、おい、おい。お前らに詰将棋ができるかい。ちょっと一ペんわしにやらせ、
わしにやらせ」
O「ちょっとこれはむつかしい」
辰「いやあ、むつかしいほうがおもろいがな。こんなものは、ええ。ウーン……あれ、変わってるなあ、
これ。真ン中に王さん一枚だけ、何にも無いのん、ほう、こういうのは初めて見たなあ。
ちょっ、ちょっと駒こっちへ貸せ、こっちへ貸せ。角に、金に、歩が三枚か。ンー、ああこら変わってるな」
O「ええ、どや、詰まるかな」
辰「これから考えるのや、これから。やいやい言いな。エーと、まず角でケツから王手や、
決まったあるこれはな。このへんから王手や。一人では頼りないな、ちょっとお前逃げてみい」
O「えっ」
辰「逃げてみい」
O「ああ、逃げるんか。ンー、ほなこれ王手がかかってるのやさかいな、
ほな、ちょっとこのへんへ宿替えしようかな、家賃も調べんと」
辰「おかしなことを言うな。そこでちょっとこうそっちへ逃げたら、あたまで歩を一丁くわしたろかな」
O「ああ、歩で王手か。ほならょっとこの歩食おかなあ、腹大きいけど」
辰「いちいちおかしな言いぐさつけな、お前。ウーム、…
 …そこで金を打ってそっちへ追い込む。そこでこう、な り戻って王手か。
ああ、あっちの隅へ追いつめたやろ。 なあ、これからや」
O「どや、詰まるかな」
辰「まあ、待て、待て。せわしのう言いな。考えさしいな。やいやい言いな。
……こういくやろ……はてなあ、もう歩しかあれへん。あすこまでは追いつめたんやが、
 ……エーこういうと、こういくか」
O「どや、詰まるかな。詰まるかな」
辰「せわしないなあ、お前もう、ちょっと考えさしてくれ。今はむつかしいとこになったあんのやないかいな。
 ちょっと待てよ。エーああで、……こう……逃げてまうなあ・…:こら間違うたかな」
O「エヘッ、どや、詰まるかな」
辰「こら、つまらん」
O「ぬかしたな、そーら、千円、千円、千円」
辰「な、な、な、何や、ちょっとこう首がしまる。離せ、離しい、何」
O「千円」
辰「千……ああ、ほたら何かいな、お前わしにあれを言わすためにこれやってたんかいな。
えらい男やなあ、そやけど。こんなもん人に考えさしやがって、どや、つまるかな、つまらん、言うわ、これ。
いやいや言うた、言うた。おそれ入った。こらしかし、ようでけたあった。お前の知恵やなかろう。
いや、払う、払う、払う。うーん、これは見事にかかった。感心した。
こらようでけたあった、感心したさかいな、倍の二千円払うわ」

O「ありがたい、一杯飲めるわ」

辰「ああ、それで差し引きや」

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January 10, 2008

天龍ラーメン。

2008_1_10imo

昨日、ラーメンを食べたくなって、久しぶりに新屋敷名店街の天龍に行く。
3時前なのにもう店じまいで掃除中??
おじさんの具合があまり良くなく、早じまいも多いと聞いていたけど・・・
結局くるくるで昼ご飯にしたけど、ちょっと寂しい。
でも、今日また早めに行くほどのガッツが自分にはもう無い。
歳やねん。

てなわけで、配偶者がまた晩ご飯も作らず消えたのでコロッケ。
芋が200円、ベーコンが268円、計468円。
1個100円のコロッケを買った方がマシだったか?
のどが詰まってあまり美味しくなかった。。。

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January 09, 2008

辰巳の辻占(辻占茶屋)。

辰巳の辻占

 吉原や品川と違って、明治に出来た洲崎遊廓(俗に辰巳、江戸城から見て東南)を舞台に
した恋のひと騒動。ほかに洲崎の出てくる落語はなく、珍らしい。別名を「辻占茶屋」「身
代り石」、ドラマでは第4週頃に登場。これが収められている本がなかなか見つかりませんで・・・。


伯父「あ、伊之か、こっちへ入んねえ」
伊之「えー、どうも誠に……」
伯父「誠にじゃアねえや……。婆さん、来たよ、伊之が」
伯母「お前さん、そうあの子にガミガミ小言をお言いなさるなよ」
伯父「小言じゃアねえ、話をするんだ、まあそこへ座んな」
伊「へえ」
伯父「へえじゃアねえ、俺も野暮なこたア言やアしねえ」
伊「へえ」
伯父「野暮な事は言わねえけれども、どういうものだな。あんまり夢中になり過ぎるじゃァねえ
か、それは若えうちは仕方がねえとは言い条、あまりといえば乱暴過ぎる。どうもお前の親父が
俺を捉めえて愚痴をこぼすんだ。俺は、ただ聞くだけだが、マアお前どういう了簡なんだ。毎晩
家を明けるというなア……。えー毎晩は、ひどいじゃアねえか」
伊「へえ、私も毎晩明けたいことはないんで……」
伯父「明けたくなければ、よすがいいじゃァねえか」
伊「で、ございますけれども、むこうがいけません」
伯父「なに、むこうがいけねえ……。むこうとは誰だい」
伊「誰といって、一晩でも顔を見せなければ病気になって、三日も続けて行かなければ、死ぬと
いう騒ぎなんで……。親父だっておふくろだって、三日や五日私がいなくっても死にゃァいたし
ません。むこうでは死ぬといってみると人命は貴いもの、人助けのために参ります」
伯父「なんだ馬鹿馬鹿しい。貴様の惚言(のろけ)を聞いてるようなもンだ。呆れ返って物がいえねえ。 苦は

楽の種、楽は苦の種、それだけ自分で苦労をして働いて、そうして楽しみに行くならいいけれ
ども、貴様はなア店番一つしねえで、親の物を持ち出して、遊ぶことばかりかかっていて、ほん
とに呆れ返っちまう」
伯母「お前さんのように、そうこの子にガミガミお言いなさるなよ」
伯父「ガミガミいう訳じゃァねえ」
伯母「お前さんだって、私が知らないと思って、鹿爪らしいことを言ってるけれども、私がお嫁
に来た当座はそうでもなかったけれども、さあ二、三年経って、道楽を始めてさ……。あの伊之
坊や、そんなにお前おじさんにばかり威張られてることはなぃよ。このおじさんだって若い時分、
お前のおとっさんと二人で遊びをしてね、お前たちにはまあおじいさん、おぱあさんだけれども。
 舅や姑にチクチクいわれるんで、私やァほんとうにどうしようと思ったよ。手前が附いてい
ながらどういう訳のものだと、私が小言を言われるんだから、馬鹿馬鹿しくッてありゃァしない。
何でもその時分の吉原の稲本のね、アノー稲葉という花魁にこの伯父さんが熱くなってね……」
伯父「おいおい、少し黙ってねえ。おれが話をしているところで、そンなことをいっちゃァ困る
じゃァねえか。それは行くのが悪いとは言わねえ。悪いとは言わねえけれども、稼がねえで、家
の物を持ち出して遊びをするから、それを小言をいうんだよ」
伯母「お前さんだって持出したじゃァありませんか。ねえ、私やアほんとうに里家のおっかさん
に聞かれた時に、どうしようと思ったよ。おっかさんがこれは死金(活用しなぃ金)だといって
渡されて、箪笥の抽斗へ入れておいたお金を、夫婦巾着ぐるみ持出してしまって、お金だけかと
思えば、私の箪笥の中の着物から、長持の物までもみんな担ぎ出してね……」
伯父「おい、よさねえか、ここでそんな……だけれどもよ、そのまるっきり家へ帰らねえのが困
るというんだ。遊びは夜だけにして、昼間は店の方を働らいて……」
伯母「お前さんだッてそうじゃァないか。この子の親父さんと二人、どこへ行っちまったかわか
らなくって、三日も四日も方々を探したあげく、それじゃァやっぱり稲本だろうと、吉原へ番頭
の金兵衛が行って、隠してるんじゃァないかと探ってみると、どうも古原にもいないというんで、
さあ、二軒ながら大騒ぎをやっていると、なんとまあ呆れるじやアないか。今度は柳橋のなんと
かいう芸者を連れて、箱根へ湯治に行ってたンだよ」
伯父「おい、婆さん、お前がそこでぐずぐずいっちやア、おれがなにも言うことが出来ねえじやアねえか」
伯母「それだから小言をおっしやるなと言うんですよ。それで私が少しでも意見がましいことを
言うと、出て行けのなんのといって、二言目には打つんだよ」
伯父「仕様がねえな、人の小言を言ってるところへ古傷を持ち出しては……。それで伊之や、お
前のはどういうんだ。先刻親父が来てつくづくいうには、なにしろ伜の胸を聞いてくれというん
だ。親父だってまんざら野暮は言わねえ。お前のは遊びが好きなのか、それともその女に限ると
いうのかどっちなんだ……。へえじやアねえ、遊び好きという奴は一番いかねえ。あの女さえ傍
へ置けばいいというのはまたどうにでもなるが、ただ家に落着いていられねえ、どうしても吉原
なら吉原、どこならどこといって、遊んでいなければ気がすまねえという奴は、遊び癖といって、
その対手の女を引張って来れば、また外の相手が欲しくなる。こりやアどうも困る。それともお
前が惚れきってる女があって、どうしてもそれでなけれぱならないというなら、親父に話をして
やろう。その女が傍に来てて、それでお前が辛抱が出来りやア結構だ。なんだ先きは、毎晩家を
明けるところを見れば、白(素人)じゃアあるめえ、黒(玄人)だろうな」
伊「へえ」
伯父「いやさ、家を毎晩明けるところを見れば、黒だろうというんだ」
伊「へえ、横丁で足を踏んだのは、たしか斑白でございました」
伯父「誰が犬の話をしている。対手の女てえのは素人じゃアなかろう、玄人だろうというんだ」
伊「へえさようで、それは玄人でございます」
伯父「うむ、なんだ吉原か?」
伊「いいえ」
伯父「方角が違うか」
伊「違います」
伯父「そうか、じゃア品川か」
伊「いいえ」
伯父「千住か」
伊「いいえ」
伯父「新宿か」
伊「いいえ」
伯父「どこだ」
伊「辰巳でございます」
伯父「辰巳といえば洲崎だな」
伊「へえ」
伯父「どうしてお前また洲崎なぞへ行くようになった」
伊「おじさん、あの、一昨年でございました。洲崎へ桜を植え附けました」
伯父「うむ……」
伊「あの時に、私はなに、行きたくはなかったんですがご三、四人学校友だちにでっくわして、
深川の不動様へご参詣に行くからつきあわないかというんで、少し遅かったけれども不動様へお
詣りに行ったんで……」
伯父「なるほど……」
伊「ご参詣がすんで、どこかでちょっとご飯を食べようといって、それから門前の或る茶屋へ行きました」
伯父「うむ」
伊「ところが私はご存じの通りお酒がたくさん飲めません。けれども友だちに勧められて、これ
が甘いからというんで、飲んだお酒か口当りがいいので、ついコップヘニ、三杯やったんで……」
伯父「なるほど」
伊「そうすると、酔って、悪く苦しくなって来ました。後で聞いたらウィスキーだそうで」
伯父「そんなものを飲んではいけねえな」
伊「あんまり苦しいから、少し風に当ったらよかろうというんで、廊下の方へ出てみると、向う
がポーッと明るくなったから、火事じゃアないかと言うと、友だちはみんな知ってたかも知れま
せんが、そうだろう、行ってみようというんで、茶屋を出て、その明るい方を指して行ってみる
と、洲崎の大門なんで、これを入ると夜桜でごさいます。大変に賑やかなんで……」
伯父「なるほど」
伊「それからここまで来たもんだから、ちょっと何しようじゃアないかと、こういう訳で、私は
遊びはその時が初めてなんで、きまりか悪かったけれども、どうも酔って息切れがして、仕様が
ないンで、なんでもいいから少し寝かしてくれといって、それからみんなと一緒に登楼(あが)ったんで
……」
伯父「なるほど、うむ」
伊「するとすぐに床をとって寝かした方がいいというんで、寝ちまいました」
伯父「うむ」
伊「少し経って目が覚めると、枕許に水が置いてある。ヒョイとその前を見ると二十一、二にな
る女が枕許に来て、チャンと座ってるンで、これはどこでございますと言うと、大層お前はん酔
っておいでゆえ、お薬をあがったらようござんしょうというのが始まりで、それからその……何が
なんで何したんで……」
伯父「何をいうんだかわからねえ。う~ん、それで何か、互いに深く馴染んで、お前が一晩でも
行かなければ、むこうが死ぬとか生きるとか言うのか」
伊「へえ、一晩でも行かなければ、部屋の者が災雛でございます。じれてやたらに小言をいった
り、何か毀したり、いろいろなことをして……」
伯父「なるほど」
伊「約束をして来て、その日に店の都合で行かないことでもあると、すぐと病気なんで、あの調
子じゃア四、五日行かなければ死にます」
伯父「う~む、そんならそのように親父に話をして、俺も一つ骨を折ってやるから、親許身請け
とか何とか話をして、こっちへ引取ったらよかろう」
伊「それがね。その当人の言うには、なんでございます。来年の三月年(ねん)が明けるんでございます」
伯父「なるほど」
伊「年が明けたら、お前のところへ行くから、どうかそれまでこっちへ来てくれろ。今さらにな
って親許身請けなどをすると、自由廃業だの何のと言われるし、派手なことをして、余計なお金
を使うことは今時馬鹿馬鹿しいから、年明けまで待ってくれろって、実にどうも心掛けの好い女なんで……」
伯父「大変な惚れ方だな。しかしそれが手管じゃアねえか」
伊「大丈夫。手管だの手づまだのってえことは外の客にすることで……」
伯父「うむ、それじゃアこうしろ。もう一ぱい女が確かに惚れてるというところの見定めが附い
たらば、自由廃業の何のといわねえように、立派に俺が身請けをしてやる」
伊「ほうとうの、おじさん胡乱だ(疑わしい)と思ったら、一晩一緒に行ってご覧なさい」
伯父「馬鹿をいえ、おれがそんなところへ行けるか」
伊「おじさん、どうするんで……」
伯父「こうするんだ。古手の趣向のようだけれども、心中して来い。その女と……」
伊「心中……」
伯父「うむ」
伊「だっておじさん、心中すりやア、死んじまいます」
伯父「心中するといって、そこが難かしい話だ」
伊「へえ、どうするんで……」
伯父「今度むこうへ行ったら、お前がいつものようでなく、少し塞いでるんだ。そこはお前だっ
て狂言(芝居)をするんだ」
伊「へえへえ……」
伯父「そこでむこうで大層塞いでるがどうしたといったら、実はもうこれが名残で来ることが出
来ないと、こうまあお前が一言いうんだ」
伊「なるほど……」
伯父「実は親父の金を使い込んだとか、人から預かったものを使ったとか、なんとかそこはいい
加減のことをいって、一つ問違えば懲役に行かなければならない。どうも赤い着物を着て生恥じ
を曝すのもいやだから、事によると遠方へ行くようになるかも知れない。そうするとこれが名残
だから、もしこれぎり逢うことが出来なくなったら、今日を命日として、線香の一本も立ってく
れろと、太股でも捻って、涙の一つもこぽしてみろ」
伊「へえなるほど、これは難かしゅうございますな」
伯父「そこでそのまま今日は帰ると立った時に、むこうが、まあお待ちなさい、お前さんばかり
は殺しませんと来れば占めたものだ」
伊「へえ、そうすればすぐに連れて来てようございますか」
伯父「まあ、アワを食うな。いよいよ心中なら心中という時になって、女の方からさあ私を先に
殺して下さいといえば真物だ。手を取っておれのところへ連れて来い。親父が何といってもおれ
が引受けてやる」
伊「そういいましょうか」
伯父「どうだかわからない。もしお前さんから先へとでも言ったらもう仕方ない。諦らめてしま
え」
 と伯父さんにそういわれて、伊之は、早速洲崎へやって来ました。
 茶屋の内儀(おかみ)が、
女「あら、若旦那どうしました」
伊「内儀、どうもご無沙汰をした」
女「いいえネ、花魁が一昨日も昨夜もあなたがお出でがないんで、ひどくじれてるんですよ。さ
っきも私にちょっと来てくれというんで、行って今帰って来たばかり、行くというと突然花魁が、
昨夜伊之さんが六号地の所を歩いてたというから、来るかと思って待ってたが来ないとこういう
んで、そりゃア違いましょう、昨夜伊之さんはお出でになりやアしませんと言うと、内儀さんま
で一緒になって嘘をいう。なんでも外に馴染が出来たに違いないって、大変に恨みを言って、泣
いて大騒ぎなんですよ。若旦那、ちょっとでいいから顔を見せておくんなさらないと、茶屋が迷
惑をしますよ」
伊「ああそうかえ。ついちやア内儀、今日は少しお前に頼みがあるんだ」
女「お頼みとは」
伊「内儀、私が心に大変心配があるように見えるか、それとも見えないか」
女「そんな事は知れませんよ。何かご心配があるの」
伊「うむ……」
女「まあ、どういうわけだか、二階へお昇(あが)んなさいよ」
伊「いやすまねえが、今日はあっちへ送って貰う前に、どうだろう一つ、顔を見てえと思うんだ
が、こっちへ呼ぶことが出来まいか」
女「そうねえ……。ようございます。どうかしましょう。ご内所(女主人)がご内所だから、た
いていようございましょう。ともかくも二階へお昇んなさい……。そういうお話ならまあご酒や
何か後にしましょう。お花や、お前お使いに行っといで………ちょっと花魁に顔を貸して下さい
って。急いでだよ。また道草を食っていないで、早く行っといで……。まあ若旦那二階へお昇ん
なさい……。今お誂らえの来る間ちょっと上り花(いれたての煎茶)の前菜を一つ………このか
き餅は貰いものだけど、ちょっと淡泊していてようございますよ。一つお撮(つま)みなさい」
伊「ありがとう………えーと、伯父は却々(なかなか)道楽もしたようだから話ぁわかってるが、照香が来て、
伯父の言った通り、お前さんばかり殺しません。さあ私を先に殺してと来てくれりやアいいが、
そう言わねえと大変に困るが、待っているうちこの塩煎餅の辻占(むかしは煎餅に辻占の書いた
ものが付いていた)、これを一つ取ってみよう……。ありがたいな。好いたよと来た。初会の晩
から、外の座敷へ行かなかったくらいのものだ……」
 これを捻って左の快へ人れたところへ、トントン、トントン、
照香「あれ、伊之さん、お前はん一人:…」
伊「うむ、まあこっちへお入り」
照「何の話し」
伊「何の話しって、まあ、お座り」
照「そう………それはそうとわたしもお前はんに話さなければならないことがある。心配で心配
でどしようかと思ってたんですよ」
伊「お前の方でもか。何だえ」
照「外じゃアありませんけれども、また今年夜桜で軒提灯を打つようになると、何や彼やの行渡
りもしなければならない。お前はんも知っての通り、この三月一ぱいで年が明けるんだから、真
正に馬鹿馬鹿しいけれども、そうかってまさか知らん顔をしている訳にもゆかないから、継続し
ても行き渡りをしようと思ってるんで、とにかくお前はんの前だけれども、仲の町へ寿司屋を出
すとか、暖簾を造らえるとか、あっちからもこっちからも言って来られると、わたしだって、ポ
ーツとしちゃアいられないから、それだけの事をしなければならない。するとちょっとここでお
金の工合があるんだけれども、お前はんにだって手許のことを知らないんでもないから、その相
談も出来す、どうしようと思っていたところなんで……」
伊「いくらばかり」
照「沢山のことでもないんで、たった四、五百円」
伊「四、五百円……四、五百円といえばたったじゃアないや:…。もう継続したのか」
照「継続してあとが四、五百円なければ足りないんで、それが出来ないようなら、ここに顔を曝
しているのは体裁が悪いし、といって外へ住み換えをするのもいやだし、いっそのこと死んでし
まおうかと思うんだけれども、伊之はんなんとかいい工夫はありまへんかねえ」
伊「そうさなア。実は私も大変な心配があるんだ」
照「お前ぱんの心配というはどういうこと」
伊「どういう心配って話したところか仕方がない」
照「仕方がないって聞かしてくれないのは、わたしがお金の相談をしたので、いやになって逃げ
るんだよ、きっと……」
伊「そうじゃアない。そうじゃないけれども、大変なことが出来たんだ」
照「なに、大変のことツてえのは」
伊「実はお前のところへ足を近く(足しげく)来るので、少し家へ穴を明けたから、どうかその
穴埋めをしたいと思って、株を買ったり、競馬へ行ったり、あくせくすればするほどうまくいか
ない。競馬では損をする、株はガラを食ってしまうし、家のものはともかくも他人から頂かった
ものまでみんな使ってしまい、仕方がなしに書いた手形はもとより偽造なんだから、マゴマゴし
ていると懲役に行かなければならない。懲役に行って生恥じを曝すくらいなら、ひと思いに死ん
だ方がいいと思って、実はお前の所へ暇乞いながら来たんだが、もしこれぎり来ないようになっ
たら、今日を命日と思って、線香の一本も手向けておくれ……」
照「おや、まあ、それはほんとう?………」
伊「ぽんとうだよ」
照「まあ、大変なことが出来たわねえ……。何とかいい工夫はないの」
伊「いい工夫があるくらいなら、ここへ来てこんな事をいやアしない。今日はただお前の顔さえ
見ればいいんだから、これで帰る」
照「まあ、お待ちなさいよ。帰るってせめて、一口…:」
伊「もうそんな事をしてはいられない」
照「仕様がないのねえ、ほんとうに。男てえものは気が短いから仕様がない……。ねえ伊之さん、
こうなればわたしだってお前はんばかりは殺さないよ」
伊「しめた」
照「え?」
伊「なにこっちのことだ」
照「お前はんばかり殺しちやアすまないから、わたしも一緒に死にましょう」
伊「ほんとかえ、まったくか。どうして死のう?」
照「ここで死んだら、この家に迷惑がかかるから、いっそのこと二号地の原へ行って心中しましょう」
伊「じゃア行こう」
照「けれども一緒に出たらこの家で何とか思うから、お前はんなり、わたしなりどっちか先へ出
て、二号地の原で遇おうじゃアありませんか」
伊「じゃア俺が先へ行こうか」
照「お待ちなさいよ。わたしが先へ出て、待ってるから、後からすぐ来ておくんなはいよ」
伊「うむ、よし」
 トントントントン。
 男はあとを追って二号地の原へ来ると、一足先へ来て女ア待っている。
照「伊之はん、ここここ」
伊「アア照香か。ここまで来たが、全体お前どうするつもりだ」
照「どうするつもりって、身を投げるのさ」
伊「身を投げる……なにしろまっくらで訳がわからねえ、どっちへ行くんだ」
照「どっちってここまで来るには来たけれども、どう行っていいかわからない。何でもここは遠
浅なんだから、もっとむこうの方へ行くんだよ」
伊「そうか」
 というんで、男の足は早いからスタスタスタスタ来て見ると、仲の町の明りは後ろにポーッと
して、昼間なら向うに上総下総を一目に見渡すのだが、まっくらでわからない。はるかに袖ケ浦
の明火(あかり)がチラチラ見えるばかり。今上潮と見えて石垣へあたる水がピシャピシャピシャピシャ
ドブーンドブーン」
伊「照香……」
照「ああ、いやだいやだ。無心をしたらあべこべにあんな陰気な話を持ちかけられ、お前ばかり
は殺さない、一緒に死のうとここまでは出て来たが、とんだことが出来た。どうしたものだろう、
あ、痛ッ……。ああ大きな石がある。この石を身代りに、ああそうだ。……伊之はん、わたしは
そっちへ行くのはいや、ここから飛びこむからお前はんも、いいかえ」
伊「そんな所でなくこっちへお出でよ」
照「もうわたしは歩けない。一足先に、南無阿弥陀仏」
 ドブーン……。
伊「あっ飛びこんだ。ああ可哀想に。弱ったなア、まっくらだからどこがどこやらわからねえ。
こうと知ったら本当の話をしておけばよかった。さあ困ったことが出来た。だからおじさんが悪
いんだ。惚れてるというのに、むやみにあんなことを言うもんだから、とうとう玉無しにしてし
まった。ああどこへ飛びこんだか、勘弁してくれ。お前ばかり殺さねえ、俺も後から飛びこむが、
さて困ったなア、風邪をひいてるから……あっ痛ッ……。あっ、石だ……。照香、堪忍してくれ。
死に後れた訳じゃアないが、実はこういうつもりじゃアなかったんだ。俺が死ぬまで身代りにこ
の石で我慢をしてくれ」
 ドブーン……。
照「ああ飛びこんだ。まあ馬鹿野郎だねえ。石をほうりこんだら人が飛びこんだと思って、慌て
て飛びこんだが、誰がそんな奴と死ぬものか。ひとりで好男子(いろおとこ)がってほんとうにイケ好かない
奴だよ。おー寒くなった。早く行こう……」
 酷い奴があるもので、スタスタ帰って来た二号地の原、片っ方は大門寄りの横丁、男の方は旧
病院の方の横丁から出て来たから、道がふた股になっている。ちょうど仲の町の茶屋の前まで来
ると、右と左から出遇い頭にバッタリ。たがいに顔を見合せて、
伊「オオ照香じゃアないか」
照「アレまあ伊之はん、誠にしばらく……」
伊「オイ何がしばらくだ」

照「お前はんには娑婆で会ったきり…:」

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January 07, 2008

元祖なんて・・・。

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ラーメンなんか、2度と食わないからな!

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ラーメンなんか、2度と食わないからな!!

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こんなに美しく麺がそろっているのは初めて見た。
そして良い言い方をするならスープがマイルド。
悪い言い方をするなら、水で薄めた雰囲気ではないのだけれど
なんか・・・・薄い??。。。なんか違うよなぁ~~。

仮面ライダー電王・・・・・泣けるで!!

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January 06, 2008

御利益。

2008_1_06tlm1

なんか皆、初ラーメンやってるみたい。
わしもちょっと、行ってみよか。。。
てなワケでルート3に出たら、2キロも行かない間にすげぇ渋滞。

2008_1_06tlm2

ほんでもって家に帰ろうと下道を走っていたら福岡方面ではなく
鳥栖方向はこっち→の道だった、おかしいなぁ~道が方向音痴だ。
で・・・・ここはどこ???

2008_1_06tlm3

何とか西鉄の線路を見つけて下っていくと店を発見。
暖簾もちゃんとぶら下がっている、やったぁ~。。
そしたら、よこからきこえるジャラの音。
店の横が神社だったんだ、ありがたや~~。
さっそくお参りして賽銭もあげる。
ガラ~ン、ガラ~ン、チャリ~ン、ぱん!ぱん!!
「宝くじが当たりますように。。。」

2008_1_06tlm4

隣の店に戻り、扉を開ける・・・ガタガタガタガタ。。。
暖簾は上がってるのに鍵がかかっている。
・・・・・
・・・・・
なんで???
賽銭まであげたのに、御利益のない神社。。。
道に迷いながら小郡往復約70キロも走ったのに。
今年1年間・・・ラーメンなんか絶対に食わないからな!!

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January 05, 2008

おみくじ。

2008_1_05kuzi

春日神社に行っておみくじを引いてみました。
まず50円あげて出てきたのは中吉。
次の50円で吉。
次の50円で大吉。
次の50円で小吉。
私は「凶」というのを引いてみたかったのに・・・。

ついでがあったら水鏡天満宮の30円のくじでも引いてみるか。
10回引いても300円やし。

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January 04, 2008

崇徳院・「セカンド」

大阪の天王寺区に生玉神社がありその南側に高津神社があるそうです。
この高津神社というのは元の仁徳天皇社。
仁徳天皇というのは繁栄する大阪の元を作ったということで親しまれているとか。

以前、「鴻池の犬」と言う話がありましたが子供にオシッコをさせるときに
福岡の方で小さい子に促す言葉は「はい、オシッコして~し~~し~~し~~」ですが
関西ではこの言葉が「こ~いこいこいこい」・・・らしいんですわ。
せやから鴻池の犬という話のオチは九州人にはピンと来ないのです。。。
うちらに分かるわけなかばい。。。


 「ああ、熊さん、こっちへ入っとくれ、忙しいとこすまなんだなあ」
 「へ、わたいね、これから天下茶屋のお得意へ行こうと思うてたら、主家からお使
いがみえたさかいちゅうて、嬶が言うもんですさかい、ほいでとりあえず仕事の方
ほっといて、お宅へ来たんだ、何ぞご用事でっかいなあ」
 「ああ、実はな、えらいことが出来たんや、伜、作治郎が」
 「えっ、さよか、ちょっとも知りまへんねんがなあ、二、三日前ね、ちょっと若且
那が具合が悪いちゅうこと聞いてたんだ。へえ、さよか、人間ちゅうもんは分から
んもんでんなあ、ほいでお通夜はいつで、お葬式は」
 「何を言うてるねん、伜はまだ生きてるで」
 「あっ、まだ生きてはりまんのんか、まあ埓のあかん」
 「何を言うねん、違うがな、あのな、実はなあ、恋患いをしよった」
 「恋患い、へえ、今どきの若且那が恋患い、へえ、どないしはったん」
 「いや、わけを聞いたところがな、あの高津さんへお詣りに行ったんや」
 「へえ、高津さんへねえ、向こうはね、仁徳天皇さんが祀っておまんねん、へえ、
昔あの仁徳天皇さんがね、向こうの絵馬堂のとこへ立ちはって詠みはった歌がおま
んねん、へえ、高き屋にのぼりて見れば煙立つ、民のかまどは賑わいにけり……。
ほいでどないしたんで」
 「いや、実はな、向こうの茶店で休んでん、ほいでお茶飲んでるとこへ、一足おく
れて入ってきはったんが、これがもう別嬪さんも別嬪さん、そらもうとても美しい
っと眺めた。ところが相手も同じようにじいっとうちの伜の顔を見た。なあ、ほい
でどうしたはずみか、その娘はんが先に立ちはった。ホナあとへ塩瀬の茶袱紗が忘
れたある。これをばうちの伜が拾うて、これはあんさんのやございませんかちゅう
て渡した。娘はんが喜びはってなあ、もとの床几に腰かけはって書きはった歌が、
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の……。こない書きはった。そいでうちの伜に渡して、
そのまますうっと、お供の女中を連れて帰りはった。ええ、それを貰うて、うちに
帰ってから、伜は頭が上がらん。この今詠んだ歌が崇徳院さんの歌、百人一首の中
にある。瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に会わんとぞ思う、今ここでお
別れしますがいずれ後には、どこぞで会いましょうという、つまり恋心を訴えた歌
や、そやさかいそれを貰うてから、とうとう寝こんでしもうた。ようようお医者は
んに聞いて恋患いということが分かった。ところがうかつな伜やで、ええ、それだ
け美しい女子はんや、丁稚を連れて行ってるねん、そやろ、そやさかいその丁稚に
目配せして跡をつけさしたらよかったんやけど、それをせなんだ。それからその娘
はんのことを想うて、何を見てもその娘はんの顔に見えるねんて、つまり恋患い。
な、そいでなあ、どっちみち大阪で会うてんさかい大阪のどこか、大家のお嬢さん
に違いないさかいな、お前はん、すまんけど、イヤほんの橋渡し、仲人は別にちゃ
んとあらためてつけて、ちゃんと話しするさかい、その先方の娘はんとこへ行ってお
 くれ」
  「何でっかいな、わたいに用事ちゅうのはそれでっか、大阪の人やといいはるけど
 大阪いうたかて広うおまっせ」
  「ああ広いなあ」
  「そんなんすぐ分かりまっか」
  「そこをお前はんが一生懸命探したらええねん。そのかわりただやない、お前はん
 になあ、この前三十円貸しがあったなあ、あらもう棒引きにしよ、ナ、あらいらん、
 その上なあ、別にお礼として百円……。アこうしよう、出来たらなあ、あの横町の
 借家七軒、あれ、あんたに上げるさかい、すぐに探しておくれ」
  「すぐに探しておくれて、あんた、そらね借金棒引きやわ、おまけに百円貰うて、
 借家七軒、そらよろしいけど、あんた大阪かて広い」
  「広いというたかてしれてるがな、一生懸命探したら分かるわ」
  「もしも大阪で分からなんだら」
  「ほな京都へ行きんかいな」
  「京都で分からなんだら」
  「名古屋へ行きなはれ」
  「名古屋で分からなんだら」
  「東京へ行ったらええ」
  「ようそんなこと言いなはるわ、まあ、ともかくなあ、行きますさかい、ホナ一ペ
 ん家へ帰って嬶と相談して」
  「あかんあかん、家に帰ってる間あれへんエ、先生のお診立てではなあ、あと五日
 の寿命やそうや、どうしても五日の間に探さなあかん、そやさかいすぐに行ってお
 くれ、エ、お腹が減ってる、何を言うねん、そんなこと心配せんでもええ、これお
 千代、あのなあ、熊さんに大きなお握り、いや、お握りでは間に合わん、お櫃に御
 飯いっぱい炊いて入れて、お菜、お菜みたいなもんいれへん、ウン、漬物がええ、
 長い太い漬物を五本ほど、それを縄にくくってな、首にぶら下げてやっとくれ、コ
 レコレお櫃を腰へぶら下げたらあかん、背中へ背たろうて、ほいで草履を五足ほど
 つけてやっとくれ、ホナ、早いこと行っといで」
  「え、こんな格好して行きまんの、ホナ行ってきまっさ……。えらいことなった
 一ぺん嬶に相談したろ、嬶、行てきた」
  「どないやってん」
  「実はこうこうこういうわけや」
  「まあ、うれしいやないか、人間一生に一ペんは運が回ってくるちゅうのん、あん
た運が回ってきてんし、先方へすぐに行かなあかんやないか、エエ分からん、分か
らんことがあるかいなヽエエ東京まで行って分からなんだらまた西へ帰らんかいな、
エエヽ神戸で分からなんだら姫路へ行って、岡山へ行って、広島へ行って下関へ行
って、ほいでそれで分からなんだら、海渡って九州……」
 「何かいな、日本縦にまっすぐ走るのんか、ホナともかく行くわ」
 「あっ、ちょっと待ち、草履五足しかない、もう十足つけて行きなはれ」
 「おうおう、えらい格好やで、背中へお櫃背たろうて、ええ、腰にぎょうさん草履
ぶら下げて、香物首へ掛けて、阿呆らしなってきた。何屋や分からんようになってきた」       
 ぼやきたおして探しましたが、分かるどうりがない、とうとう五日目がやってき
ました。嫁はんたまりかねて、
 「ちょっと、今日はどうしても探しておいなはれや、今日、よう探さんてなこっち
ゃったら、もうわたいあんたと別れるさかい、な、あんたみたいな先のない人はあ
かへんねん、しっかり聞きなはれ」
 「ホタラ嬶、何かい、今日若且那の嫁はんが探せなんだら、われと俺とが夫婦別れ
するのんか、そんな殺生なことがあるかい。主家の若且那の嫁はん探すために、そ
れが分からなんだら、うちが夫婦別れ、長年われと添うてきて、たいてい情がわか
ってるはずやで、お前みたいな薄情な女しらんわ、ホナ行ってくるわい」
 「あっ、ちょっと待ちや、ちょっと待ち、あのな、一体どない言うて探してるねん」
 「何ッ」
 「どない言うて探してなはるねん」
 「何も言わんと探してる」
 「阿呆かいな、この人は黙って歩いてたら分かるかいな、何とか言うたなあ、ア、
そうそう、瀬をはやみ岩にせかるる滝川の、この歌をなんでうたいなはらん、エ、
大きな声出してうとうたら、それ聞いてはった人がアアそんな話やったらどこそこ
で聞いたと、どこそこにあったと、すぐに分かるねん、それが手掛かりになって……。
なるべくなあ、人の大勢集まるとこ行きなはれや、散髪屋はんとか風呂屋はん、
ああいうとこへ行くとぎょうさん人が集まってるさかい、しっかり行っといなはれ」
 「よっしゃ、ホナ行ってくるわ、お前と別れるぐらいやったらなあ、俺、今日、命
がけで一生懸命探してくるさかい……。情けのうなってきた、まさか正月早々こん
なことになるとは思わなんだ。なあ、しかし、嬶はええ頭してよるなあ、あの歌を
うとうたらええねんなあ:…。さて、こうなると声の出んもんやなあ。人のいんと
こで稽古したる、瀬、瀬、瀬をはやみ、ハハ、これやったらいけるわ、瀬をはやみ、
岩にせかるる滝川の、なるほどこの調子でやったらええねん、瀬をはやみ岩にせか
るる滝川の、瀬をはやみー」
 「いわし屋はん」
 「何を吐かしとんねん、誰がいわし屋や、いわし屋と間違いやがって、アそや、言
うとった、嬶が人の大勢集まってるとこがええと言うとった……。向こうにぎょう
さん人が集まってよる、向こうへ行って言うたろ、瀬をはやみ……」
 「ああ心びっくりした。何でんねん」
 「えろうぎょうさん人が集まってますが、何でんねん」
 「犬がさかってまんねん」
 「やっぱり瀬をはやみがもとでっか」
 「何を言うてなはるねん、あっちへ行きなはれ」
 「あ、さよか、えらいすんまへん、……ア、そや、散髪屋へ行ったろ、な、なるべく
混んでるとこがええやろ、ごめんやす」
 「へ、おこしやす」
 「おたくつかえてますか、空いてますか」
 「アア丁度よろしいわ、今空いてまんねん」
 「さいなら」
 「もし、もうし、間違うたらいかんで、うち空いてるんだ」
 「いや、あきまへんねん、空いてるとこは。なるべく混んでるとこを探してまんねん、
また来まっさ、へへ、何吐かしてけつかんねん、何で空いてるとこへ入るねん……、ごめんやす」
 「へ、おこしやす」
 「おたく空いてまっか」
 「アちょっとつかえてまんねん、へえ、しばらく待ってもらわんなりまへんねん
 「ぜひお願いします、わたい、つかえてるとこ探してましてん、ええ」
 「さよか、どうぞ一服しとくれやす」
 「へえ、おおきに有難う……。今年のお正月はなかなかええお正月で、へえ、ちょ
っと失礼……。瀬をはやみ」
 「何でんねん」
 「岩にせかるる滝川の……。瀬をはやみ」
 「もし、もうし、あんた、その歌がえろう、お好きとみえまんなあ」
 「いや、別にわたい好きで言うてるわけやおまへんねん、あんたこの歌ご存じでっか」
 「ええ、わたいもねえ、あんまり知りまへんねんけども、近頃、うちの娘がたえず
 そんなこと言うてまっせ」
  「ええ、お宅のお嬢さんがたえず言うてはるん……。アノウ、つかんことを訊ねま
 すが、お宅のお嬢さん、高津さんへお詣りしはりまっか」
  「ええ、まあ氏神さんでっさかいねえ、へえ、ちょいちょいお詣りするらしおまんねん」
  「ハア、さよか、お宅のお嬢さん、別嬪さんでっか、別嬪さんでっか」
  「ハハハ、阿呆らしい、いやいや、そない訊ねられたら、親の口からこんなこと言
 うのんおかしおまんねんけど、まあ町内では鳶が鷹を生んだと、こない言われてまんねん」
  「さよか、おたくのお嬢さんに間違いおまへん、お歳おいくつで」
  「今年七つでんねん」
  「瀬をはやみ」
  「何じゃいな、この人は」
  それから散髪屋三十八軒、風呂屋二十八軒回りました、夕方になったらもうポーとしよった。
  「こんにちは」
  「もうし、あんさん、朝からうちに来はったことおまへんか」
  「ひょっとしたら、よせてもろうたか知れまへん。なんしねえ、散髪屋三十八軒、
 風呂屋二十八軒、回ったんだ、はじめの間、頭刈ってもらうの、気持よろしおまし
 てん、へえ、もうしまいには剃刀で剃ってもろうて、もうここらヒリヒリしまんねん。
もう顔なんか何べん剃られたか、もうさっぱりわやですわ」
  「ホナ、刈るとこおまへんなあ」
  「ぼちぼち植えとくなはるか」
  「何を言うてなはんねん」
  「ともかく、ちょっと一服さしてもらえますか……。瀬をはやみ」
  「またはじめはったで」
  「今日はちょっと急き前で頼むわ」
  「ああ、源さんやおまへんかいな、どないしなはったん」
  「えらいことでんねん、うちの本家、お嬢さんが恋患い、へえ、男ちゅうのはええ
男に生まれなあきまへんなあ。ええ、うちのお嬢さん、この界隈きっての今小町と
棹名のある別嬪さん。あの人がねえ、高津さんへお詣りになって、ちょっと茶店で
休みはったんだ。先からお休みになってた若旦那、どこの若旦那や分からんけど、
ええ男やそうですね。へえ、ちょうど六代目松鶴みたいな、そらねえ、声はちょっ
と悪うおまっけどねえ、へえ、なかなかええ男だ、へえ、その若且那見てねえ、
歌書いて渡した。自分の心をこめて、瀬をはやみ岩にせかるる滝川の……。
われても末に会わんとぞ思う、というのが下の句だ、分かってまっしゃろ。
百人一首、崇徳院さんの歌だ、それ渡して帰ってから若且那に恋患い、寝たきりだ、
ええ、ようよう病気の原因が分かったんでねえ、皆で手分けしてあっちこっち探し回って、
へえ、わたいもこれから南回り……。もうずうっと住吉から堺、岸和田から和歌山、
それで分からなんだら紀州熊野浦へ行ってねえ、探そうと、
ちょっと他の人に悪うおまんねんけど早いことやっとくなはれ」
  「もうし」
  「な、何しなはる、不意に人の胸倉つかまえてどないしなはった」
  「何かい、瀬をはやみ岩にせかるる滝川の、と書いて渡したお嬢さんちゅうのは、
 お前とこの本家のお嬢さんかい」
  「それがどないしてん」
  「己れに会おとて艱難辛苦はいかばかり、今日ここで出会いしは、うどんげの花
 咲き見えたる心地して、己れ、恨み晴らさで……」
  「何や、仇討ちやなあ、ホナ、何かい、その瀬をはやみ岩にせかるる滝川の、ちゅ
 う歌もろうた若且那というのは、己れとこの主家の若且那かい」
  「そうじゃい」
  「ナニ糞、コラ、なにするねん。己れに会おとて、艱難辛苦……」
 「同じように言うな、何を吐かしとんねん、さあ、俺とこの主家へ来い」
  「俺とこの本家へ来い」
  「いや、俺とこの主家へこい」
  「もうし、もうし、もうし。あんたら、揉めてるどころやおまへんで、ええ、お互
 いに探してる人が知れてこんな目出たいことおまへんがな、お互いが家へ帰って、
 ちゃんと消息を伝えなあきまへんがな」
  「もうし、もうし」
  「何です」
  「おたくの主家の若且那ちゅう人は、どれだけええ男か知りまへんが、こちらの本
家のお嬢さん、そらなかなかの別嬪さんでっせ、その別嬪さんに恋患いさすとは、
よっぽどおたくの若且那、人徳のあるお方でんなあ」

  「ニン徳のあるはずや、見そめたんが高津さんや」

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January 03, 2008

三十数年前の落語のこと・・・。

2008_1_03book

私、今、二十歳ですけど・・・三十数年前のことでんねん。
TVで落語を見ていました。
うろ覚えなんですが、旅行ものだったと思います。
旅の宿か、舟の中で暇をもてあました人が~とかけて~と解く・・・
と言うような遊びを始めます。
するとその横でうつらうつらしていた老人が、突然話を始めます。
皆ヒマですから、けったいな話が始まったと思いつつも、
ええやんか、しゃべらせとけという案配で老人の寝言を聞くのですが
これが長い・・・。
ええ加減聞き飽きたと言うところで老人が「と、かけて・・・・」と言いますから
そら、みなビックリ!
で、それがどうなるねん、とオチが付く部分を何かの理由で私が聞けなかったんですわ。
あれがいまだに何という落語でオチはどん何なのかがワカラナイ。

で月日が15年ほど経ちますと、スーパー文庫というシロモノが流行りました。
月刊少年マガジンくらいの本で紙質が悪いのですが、2000円はしない。
それでいて「ざ・漱石」「ざ・賢治」とかありましてん。
1冊の本なのに夏目漱石の全小説が印刷されてました。
その流れの棚にあったのが画像の2冊。
なんや、この2冊を買って読んだら、謎が解けるかもしれないと買いました。
そしていまだに読んでいません。
なんか、聞くのではなく読む落語は苦しいというか、続きまへん。
奥付を見たら昭和60年くらいの本でした。
引っ越しでどこに行ったやら、行方不明ちゅう感じでしたが
やっとの思いで探し出しました。

それにしても・・・・
昔の正月番組は落語でしたが、今は何もありまへんなぁ~。。。

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January 01, 2008

お正月寄席 「崇徳院」。

瀬をはやみ~と大声で言うてはったのがこれでおま。
川の流れが岩に当たり二つに分かれても、その下流ではまた一つに結ばれる・・・


 ガラッと世の中が変わってしまいまして、ないようになったものはぎょうさんございま
 すけど、恋患いというのがないようになったんやそうですな。このごろはまあノイローゼ
 やとか、いろんな他の名前がついてますが、むかしはもう言いたいこともこう口から出さ
 んと、ジイーッとこう思い悩んでるてな、ようあったもんで、年頃の娘はんがジイーッと
 やってると、もう親が、じきにもうその心配をして、
「あんた、はっきり言うたらどやのん」
「……………」
「相手誰? お向かいの清八さんか、ほなあの弥助はんか、卯之吉つぁんか、良夫はんか、誰やのん」
「……誰でもええ」
 こんなんも中にはあったんやそうですさかい、えろう同情せえでもええのんかもわから
 んが、このごろはまあこんなん流行りまへんな。大事なはなしでも電話かなんかで簡単に
 かたづけてしまう人があったりして、
「あっ、春子さんですか、昨日はどうも失礼しました」
「昨日はどうも失礼をいたしました。きのうああやってあなたから結婚のお申し込みをい
 ただいて、はあ、ご承諾して帰ったんですけどね、うちへ帰ってよう考えてみましたら、
 よそから、一つ先口受けてましたんやわ、はあ、で、お宅さんのほうお断わりせんならん
 ようなことに」
「ああさよか、……そらどうもしゃあおまへんわな、それやったら、へえ、ほなまたどこ
 ぞ他探してみまっさかいに……」
 なんやこう、アパートでも探してるようなぐあいでこれではとても恋患いなんかできる
 わけはない。大阪にまだ恋患いてな悠長なものがあった時分のおはなしで。
熊「今日は、熊五郎で、えらい遅なりまして……」
番頭「ああ熊はんか、旦那がお待ちかねや。早よ奥へ通って」
熊「へえごめんを、……あ、旦さん、熊五郎でおます、お使いをいただきましたんやそう
 で。いえ、朝からちょっと用足しに行とおりまして、帰るなり急な御用や。言われて、
 草履も脱がんと飛んで来ましたんやが、何の御用で」
旦「ああ熊五郎か、待ってたんや。また一つ、やらてもらわんならんことがでけた……と
 いうのは、実は倅、作治郎のことじゃ」
熊「へえへえ、若旦那が」
旦「うむ二十日ほど前から、フトした風邪がもとで寝込んでしもうた。いろいろとお医
 者にも見せたが、どうにも診立てがつかん。とうとうえらいことになってな」
熊「ヘーえ、ちっとも存じまへなんだ。さよか、ほたら私、これからお寺へ行て来まっさ
 かい、葬礼屋はどなたかほかの方で」
旦「これ、ちょっと侍ちなはれ。倅はまだ死んでやせんがな」
熊「あ、さよか。そら埓のあかんこって」
旦「そら何を言うのやいな、埓があいてたまるかいな。で、さるご名医にお見せしたとこ
 ろが、これは気病じゃとおっしゃる。薬では治らん。何か心に思いつめていることがあ
 るに違いない。その思いごとさえ叶えてやれば病はたちどころに治るが、こんなりほっ
 といたらあと五日がむつかしい。ともかく、心のしこりをほどけばよいとのこと。まあ。
 やれやれ。……ところがその思いごと、というのをわしが聞いても言わん、母親がたず
 ねても返事をせん。全体、こなたは誰になら言うのやと聞いたら、熊はん、お前にやっ
 たら打ち明けると言うのや。親にさえ言えんことを……もっとも、親にはかえって言い
 にくいことがある。ま、小さい時からお前はんとは馬が合うらしかったし、ひとり、そ
 の噸いごとというのを聞き出してやってもらいたいのじゃ」
熊「さよか、そらご心配なこって。よろしい。いえ、何でもないこって、若旦那は……、
 あ、奥の離れに……、 へえへえ……ちっとも知らなんだな、……奥の離れと、ここや
(と、控えの間をあけるしぐさ)うわ、薬の匂いがブンとくるがな。病人の部屋をこう閉め
 きったらいかんなあ……もうし若旦那(と、次のふすまを開く)こんな薄暗いところに寝てたら毒や」
若「誰も来たらいかんと言うてるのに………どなたや」
熊「熊五郎でおます」
若「ああ熊はんか。さあ、こっちへ入っとおくれ」
熊「あんた患うてはりまんねやてな」
若「大きな声やな、頭へひびくがな」
熊「いけまへんで。良え若い者がキナキナ思いごとして寝てるてな、そんなん今どきはや
 らん。けど私、喜んでまんねんで。親旦那にさえ言えんことを熊五郎を呼んでくれ……
 よう言うとおくなはった。私、あんたのためならどんな事でもしまっせ。何を思いつめ
 てなはんね、早よ言うとおくなはれ」
若「おおきに。これだけは誰にも言わずに死んでしまおうと思うてたんやが、お前はんに
 だけは聞いてもらいたい。……けど、私がこんなことを言うたさかいというて、お前、
 笑うたらあかんで」
熊「なんで笑いますねん。病のもとを尋ねて笑うわけがおまへんがな」
若「いや、ひょっとしたら笑うわ。もし笑われたら私、恥かしいよってに死んでしまう。
 必ず笑わんといてな」
熊「えらいむつかしいんやなあ、へえへえ、笑わしまへん、こわい顔してまっさかい」
若「別に、にらまんかてええがな。しかし……そう言うててもお前、……私がこんなこと
 言うたら、エヘ、やっぱり笑うやろ」
熊「あんたが笑うてなはんねやがな」
若「はたら、お前、死ぬか」
熊「なんで私が死なんならんのや。そんなあほなこと。言うてんと、早よおっしやれ」
若「どうもしょがない。ほな、思い切って言うてしまおう。実はニ十日ほど前に定吉を連
 れて高津さんへお参りをしたんや」
熊「へえへえ、高津さん、仁徳天皇よう知ってる、それから」
若「ああせわしな……ご参詣をすませてから絵馬堂の茶店で一服した」
熊「絵馬堂、向こう見晴らしがよろしい。道頓堀まで一目に見える。腰かけるなり茶くん
 でくる羊羹持ってくる。向こ{あそこの意味}の羊羹、分厚うてうまいねん、なんぼほど食べた」
若「知らんがなそんなこと。こっちが休んでるところへ入っておいなはったんが、お齢の
 ころが十七、八、お供を四、五人連れてそれはそれは美しい水も滴れるようなきれいな
 お方や。ああ世にはうつやかなお人もあるものと、こっちがじーと見てるとな、先様も
 こっちをじーと見てはったと思うたら、二コッと笑うてやった」
熊「そら、向こうが負けや」
若「にらみ合いと違うで、これ。あとから来て先に立たんならん破目になって、出て行か
 はったあとを見ると、緋塩瀬(明るい朱色)の茶袱紗が忘れたある。私が立って行て、これあんたはん
 のと違いますかと手から手へ渡してあげると、丁寧におじぎをしやはってまた茶店へ戻
 ってくるなり料紙を出せとおっしゃる」
熊「そんな無理言うたらいかんわ。高津さん(神社)あたりに漁師が居たりするかいな。あらやっ
 ぱり浜手のほうに」
若「何を言うてる。料紙というたら紙に硯を添えて持ってくるのや。紙にサラサラと歌を
 書いてくれはった。手にとって見ると良え手跡で「瀬を早み、岩にせかるる滝川の」と
 してある」
熊「ははあ、そらやっぱり油虫のまじないで」
若「阿呆なこと言いなはれ。お前はんなんか知ろまいが、これは百人一首にもある崇徳院
 さんのお歌や。下の句が「割れても末に逢はんとぞ思ふ」それが書いてない。こうして
 わざと下の句の書いてないところをみると、今日は本意ないお別れをいたしますが、い
 ずれ末には嬉しうお目にかかれますようにという、先様のお心かいなと思うと、私もう
 ファーとなってしもうて、家へ帰ったきり頭が上がらん。……思いつめて寝てるとえら
 いもんやで、天井へその娘はんの顔が浮かんでくる。欄間の天人の顔もその人に見える。
 掛軸の鍾馗さんの顔がその娘はん、足にふまえてる鬼の顔までその人や。……さいぜん
 からしゃべってるやろ、……と、お前の顔がだんだんとその娘はんに」
熊「ねきへ寄りないな、心持の悪い。ようそれだけ思い詰めなはったな。……よろしい。
 あんたがそこまで思い詰めたんなら私も男や、どないでもして一緒にさせたげま。どれ
 だけの御大家か知らんが、ここのお家もこれだけの身上、よもや釣り合わんてなことは
 おまへんやろ。相手はどこのお方だす。どこのお方やおっしゃれ」
若「それがわからん」
熊「なに、わからん……わからんて、ようそんな頼りないことを言うてなはるな。……な
 んで定吉とんにでも後をつけさせてやらへんのや。ぬかったなあ、ま、よろしい。わか
 らんならわからんでまた、手だてがおますわいな。ちょっと待ってなはれ、短気な心お
 こしたらあきまへんで。……チェッ、銭のある奴ちゅうのはしょうもないこと言うて患
 うてけつかる。……へい、行てまいりました」
旦「おお、どんなこと言うてましたな、倅」
熊「えらいこと言うてまっせ、倅」
旦「お前までが倅というやつがあるかい」
熊「何でもニ十日ほど前に高津さんへ行かはりましたやろ」
旦「ああ、参りたいというので定吉をつけてやりました」
熊「それがいけまへんね。なんで生玉(いくたま)はんへ参らさん」
旦「知らんがな、どうしたんや」
熊「その高津さんが業(わざ)しよったんだんな」
旦「何じゃ、その業しよったとは」
熊「ご参詣すませて絵馬堂の茶店で一服したんでやすと、向こ見晴らしがよろしいさかい
 な。道頓堀まで一目に見える。じきに茶くんでくる。羊羹もってくる、向この羊羹分厚
 うてうまい、なんぼほど食べたと思うやろ」
旦「そんなこと思やせん」
熊「思やせんて、ここ思うとこやがな。で、一服してなはるとそこへ、お供を四、五人連
 れてお齢のころなら十七、八、ビチョビチョの女子が入って来たン」
旦「なんやそのビチョビチョの女子とは」
熊「さあ、川へでもはまったんだっしゃろな。体からこうボタボタと、水が滴れてまんねんて」
旦「それも言おうなら、水も滴れるようなきれいなお方というのと違うか」
熊「あ、それでやすわ」
旦「何を聞いてきたんじゃ」
熊「それが入って来たんで。で、若旦那もきれいな人やなと思うて見ていると、先様もこ
 っちをじっと見てたかと思うと、二コッと笑うたと言いまんねん。生意気な奴だっせ。
 わたいやったらボーンといてこましたるとこやけどな。それで後から来たのに先に立つ
 破目になって、出て行たあとを見ると、緋塩瀬の茶ブクサとかいうもんが忘れてあった
 ほっときゃええのに若旦那の世話焼き、立って行てこれあんたはんのと違いますかと手
 から手へ渡したげると、向こうも丁寧にお辞儀をしやはって、また茶店へ戻るなり、良
 助出えとこう言う」
旦「何や、その良助というのは」
熊「わかりまへんやろ。ここは私にもわからなんだんや、良助とは紙と硯」
旦「それは料紙じゃ」
熊「それそれ、それを出したらサラサラと紙に歌を書いてくれはった。その歌の文句が、
 石川や浜の真砂は……いやこれは違う。……あの、百人一首に〝人食い〟というのがお
 まっしゃろ」
旦「〝人食い〟とはどうや。〝崇徳院〟さんと違うか」
熊「そうそう、……あの歌はどない言います」
旦「どっちが尋ねてんのやわからんな。崇徳院さんなら〝瀬を早み岩にせかるる滝川の〟」
熊「そいつや、それそれ」
旦「割れても末……」
熊「おっとそれが書いてない。こうしてわざと下の句が書いてないところをみるととちゅ
 うやつや。今日は本意ないお別れをいたしますが、また末には嬉しゅうお目にかかれま
 すようにという先様のお心かいなあと思うたら、わいもう恥かしながらフワー、……頭
 が上がらん、あんたの顔がいとはんに見える(と、顔をなでる)
旦「これ、何をするねん」
熊「このお方をお嫁におもらい遊ばしたらご病気全快まちがいなしでごわす」
旦「おおきに、よう聞いてきてくれた、あんたは倅の命の恩人や。一人よりない倅、何は
 さておいてももろうてやりましょう。熊はん、あんた仲人というわけにもゆくまいが、
 ま、橋渡しじゃ、ひとつ先方さんへ掛け合うてもらうわけにはいかんか」
熊「へえ、……掛け合わんことはおまへんが、それがその、どこのお方やわからんとおっしゃる」
旦。「わからん、と言うたかて日本人やろ」
熊「そら日本人ですわいな」
旦。「日本人なら、これからすぐ大阪じゅう探しなはれ。大阪探してわからなんだら京都、
 京都でわからなんだら大津から名古屋、浜松、静岡、横浜、東京、今は日本国中縦横十
 文字に道がついたあるねん。これから探しに行きなはれ。これを首尾よう探し出してき
 てくれたら、このあいだ、お前はんに貸した金、あの証文そっちへお返し申す。別に一
 時のお礼もさしてもらう。さあ早う………なに、家へ帰って支度を、そんな暇はない。
 うちの倅、あんなり放っといたら五日間もたんと言われてるねん、じきに行き。え、お
 腹が減ってるか、そらいかん。これこれ、熊五郎おなかがすいてるそうな、御飯ごしら
 えしてやっとおくれ。いや御膳も何も要らん、おひつのまま持ってきなはれ、お菜なん
 か何でもええ。沢庵一本洗うて………切らいでもええ、その中へ放り込んでこっちへ、
 あ、お清、お前そのたすきはずしなはれ。この紐でおひつをこういうぐあいにくくって
 さあ熊はん、これ首から掛けなはれ。必ず茶店へ寄ったり立ち止まったりして飯食うこ
 とならんぞ。歩きながら沢庵かじって飯食べながら探すのや。草履がそこにあるやろ。
 五足、かまへん。これを腰へくくりつけとくさかい、切れたらじきに履き替えて、せえ
 だい探しとおいで、わかったなあ。もっと尻からげ高うして、さあ、早よ行とおいなは
 れ(と、ポンと背中をたたく)」
熊「そら何をするねん。……(両手でおひっを抱えた格好)こんな格好でどこへ行けるねん。
 ……嬶(かかあ)、今戻った」
女房「……あんたまた、何ちゅう格好で帰ってくるのや。首からお櫃ぶら下げて、腰に草履
 吊って……荒物屋の化物やがな。で御本家へ行たんかいな。……フンそれで、……ハ
 ア、……へえ若旦那が……まあ、はやそんなこと言うようになって……… フン……へえ
 で、その人を探してきたら、このあいだの借金、あれ気になってたんや、あれ棒引きの
 上に、別に一時のお礼………まあ結構やないか。早よ行とおいなはれ」
熊「……いや、お前はあっさり言うけど、どこの人やわからへんがな」
女「わからんと言うたかて日本人やろ」
熊「同じように言うない。きまってるわい」
女「日本人ならこれから大阪じゅう探しなはれ。大阪で知れなんだら神戸、神戸で知れな
 んだら明石、姫路から岡山、広島、下関から・九州ぐるっと回っとおいなはれ。今は日本
 国中縦横十文字に道がついてある。ワラジが五足、そんなもんで足るかいな。ここに十
 足あるさかいこれくくりつけたげる」
熊「こらっ、お前までが同じように……」
 半泣きになって家を飛び出します。当てもなしに大阪の町中をぐるぐる探しまわりまし
たが、もとより雲をつかむような尋ねもの、知れそうなはずがない。日が暮れになります
と、ぐったりして、
熊「嬶―」
女「嬶やないがな、この人。いつまでマゴマゴしてるのや。御本家から何べんもお使いが
 見えてるがな。早よ行とおいなはれ」
熊「ああ、一服もさせよらんな。……へい、熊五郎、ただいま戻リました」
旦「なに、熊はんが帰ったか。さあ、すぐにこっちへ通しなはれ。足洗う水を……。そや
 疲れてるやろ、風呂を沸かしなはれ。御飯の支度や、お酒を爛して……鰻でも言いにや
 り。いや、おおきにご苫労はん。さいぜんはえらい荒い言葉をかけてすまなんだ、まっ
 たく親というものは子供のことにかかったらまるで気違いじゃ、ハッハッハ、勘忍しと
 おくれ。さあ、お座布当てんかいな。おい……手文庫をちょっとここへ。……あのな、
 これ、このあいだの証文、こんなもん入れんかてかまやせんのに……… これそっちへお
 返しします。遠慮しなはんな。それから、これは少ないで、少ないけどまあ一時のお礼
 気持ちだけ包んどいた、いずれ改めてお礼をさせてもらいます。ま、取っときなはれて。
 そこでじゃ………さいぜん暦を調べたら、明後日が誠に日が良えのや。でまあ、結納だ
 けなと取り交わせたらと思うのやが、さだめし先様は御大家じゃろなあ」
熊「……それがその……わかりまへんのやがな」
旦「何、何やて、……わからん……。ちょっと、酒の爛待った。風呂沸かすことならん。
 熊はんちょっと前へ出なはれ。……なんでお礼を懐中へ入れるねん。これ、お前わから
 んてなこと言うて、ようのめのめと帰って来たな。うちの倅、あんなり放っといたらあ
 と五日もたんと言われてるねん。……礼が気に人らんか、いいや、礼はさせてもらう。
 裏の蔵付きの五軒の借家、すっくりあんたに上げる、別に一時のお礼が三百円じゃ」
熊「ぎえっ。あの五軒の借家と三百円。……三百円いうたら、百円札が三つ、十円札で三十枚」
旦「そうやがな」
熊「一円札で三百枚、五十銭玉でなんぼある」
旦「知らんがなそんなこと」
熊「よろしい、こうなったら私も欲と二人連れや、命のあらん限り探しまわります。けど、
 大阪も広うおますわ。上町辺をたずねまわっただけでも半日ぐらいかかりまっしやろ。
 どうぞ三日だけご猶予を」
旦「よろしい、三日侍ったげる。せえだい、探してきなはれ」
熊「おさき、今戻ったで」
女「行てきたんか、どうやった」
熊「三日だけ暇もろてきた。これを首尾よう探し出したら、三百円とあの蔵付きの借家五
 軒、わいのもんや」
女「まあ結構なことやがな、あんた、家主さんになれるんやで、運が向いてきた。しっか
 リやんなはれや。私も心当たりを聞きまわるさかいな」
熊「頼むで」
 さあ、こうなりますと、一生懸命、欲と二人連れというのは恐ろしいもんで、二日二晩
 というものは寝食を忘れてぐるぐるぐると歩きまわったが、どうしても知れまへん。二日
 目の晩方になると欲も得も抜け果ててぼけ上がってしもうた。
熊「……あー、えらい事を引け受けたな。自分の体や人の体やわからん。……こうなった
 ら若旦那より俺のほうが二日ほど早いで。……帰って来た。またボロクソに言いよるや
 ろな。……今戻った」
女「お帰り、どうやった。………え………なんぼ探してもわからん……そうか………しょう
 がないがな、あきらめなはれ。あきらめなしょうがないやないか、先様にも御縁がなか
 ったんやし、こっちにも運がないのや。だいたい、あんたもわたいも運の悪いほうや。
 ……そやけど、あんた毎日どんなこと言うて道を歩いてなはんねん」
熊「なんやて」
女「いいええな、一体、どんな探し方をして道を歩いてたんやと言うね」
熊「どんなーて、黙って歩いてたんやがな」
女「黙って………ま、アホかいな。このスカタン」
熊「スカタンとはどうや」
女「そやないかいな。ほんまに……はたら二日間、黙ってただぐるぐる歩きまわらてたん
 かいな。……それで知れるわけがないがな。もうほんまに、こんなアホやとは思わなん
 だ。いいえ、良え手づるがあるやないか。その崇徳院さんのに〝瀬を早み〟とか何とかい
 う歌、それを大きな声を出して歌うて歩きなはれ。ほたら聞いた人が、あ、その歌につ
 いてこんな話がおますとか、こんな噂を聞きましたとか、また中にはなんでそんな歌を
 うとうて歩きなはるのや、と聞く人もあるやろし、ひょっと手がかりがつかめんもんで
 もないのに、黙って歩いてたやなんて……。あんたこの人を探し出せなんだら、もう生
 涯頭の上がる見込みなし、私もうひとまず、荷物まとめて大和の叔母はんのとこへ去ぬし」
熊「ちょっ、ちょっと侍ってくれ。よその嫁はんを探さんうちに、こっちが夫婦別れして
 どうなるねん。とにかく、あと一日残ってる。あしたは何とか探すさかいに、今日はも
 う寝かしてえな。しんどうてフラフラや」
女「情けない人やな。ほたら今日は早う寝て、明川は早う起きて茶漬けでもかっ込んで
 じきに探しに行くのやで。そんならもう寝なはれ」
熊「おやすみ」
女「さあ起きなはれ」
熊「……寝るまもなんにもあらへんがな」
女「さーあ、起きなはれ起きなはれ。そこに御飯の支度がしてある。言うときまっせ、も
 う今日一日だけだっせ。あの歌うたいながら道を歩くんやで。それでなるべく、風呂屋
 さんとか床屋さんとか、人さんの大勢集まるところへ行て今の歌を言うてたらええんや、
 わかってるな」
熊「ふん。………えらい嬶やな、うちの奴は。ぽろくそに言うて家をほうリ出しやがった。
 ……あの歌うたいながら道を歩けやて、そんな阿呆らしいことができるかい。……そや
 けど、黙って通っててもわからん理屈やなあ。いっぺんやってみたろ……(二、三度歌
 いかけてはやめる)……道の真ン中で声は出んもんやなあ。ひとつ、思い切って……瀬を
 はやみィ、岩にせかるる、滝川のォー」
O「ちょっと、おかず屋はん」
熊「何かしやがんねん。こんなものがおかずになるかい。……瀬をーはやみ、……なに、
 ……おっさんチラシ一枚くれ……違う違う、瀬をーはやみ。……こら、子供がぎょうさ
 んついてきたな。気違いと違うわい、あっちへ行けっ。………。岩にせかるる」
犬「ウーワンッ」
熊「シャイシャイッ、犬までがバカにしやがる。こらあかんわ。そや、あいつ、床屋か風
 呂屋へ行け言うてたな。いっぺん、床屋へ行ってみたろ。……へえ、ごめん」
床「お越しやす」
熊「ひげをひとつやってもらおうと思うて」
床「ちょうど良えとこだす。誰もおらしまへんわ、どうぞお入り」
熊「さよなら」
床「……もしもし、空いてまんねんで、じきにやれまねんで」
熊(空いてるとこはあかんのや。こっちは混んでないと都合が悪いねん。……ごめんを」
床「へえお越し」
熊「ちょっと、ひげを……」
床「あ、大将、鈍なことで、今ちょっと四、五人つかえてまんねやが」
熊「へえ、それが結構だんね。待たしてもらいます」
床「あ、さよか、ほたら一服してとおくれやす。じきにすみまっさかい」
熊「へえおおきに(と、煙草入れを取り出す)……すんまへんがちょっと火を……(一服吸う、
 突然大声で)瀬をーはやみ」
客甲「おっびっくりした、あーびっくりした。あんた何だんねん。急に大きな声出して」
熊「いえ、べつに、何でもおまへんのやが:……岩にせかるる滝川の……」
客乙「ははは、あんた、えらい崇徳院さんのお歌がお好きと見えますな」
熊「もうし、あんさん。これを崇徳院さんのお歌やなんて、えらい詳しいことを御存じで」
乙「べつに詳しいことはおまへんが、ま、負うた子に教えられというやつで、うちの娘が
 しじゅうそんなことを言うてますんで、親の私までつい覚えてしもうたてなこって」
熊「……お宅の娘はんが、こんなことをしじゅう言うてはる……。つかんことを聞きます
 けど、お宅のとうさんというのは、えらい別嬪さんと違いますか」
乙「まあ親の口から言うのはけったいなが、親類でもトンビが夕力を生んだな、てなこと
 言うてくれましてな」
熊「トンビがタカ……水が滴れてまんな」
乙「何だす」
熊「いやいや……あの、ニ十日ほど前に高津さんへ行かはったことはおまへなんだか」
乙「へえ、高津さんでも生玉はんでもしじゅう遊びに行かせてもろうてまっせ」
熊「おおきに……ありがたい、水も滴れるようなきれいなお人で、お齢のころが十七、八」
乙「いえ、まだ七つだす」
熊「……瀬をーはやみ」
乙「なんやいな、この人」
 またがっかりしてしもうた。さあそれから、その日は風呂屋をニ十六軒に床屋を十八軒
 と回りまして、日が暮れになると、目もゴボッ、頬もげっそり、
熊「ごーめーん」
床「へえお越し、……あの人また来たで、朝から六ぺん目や。なんぞお忘れ物だっか」
熊「あの、ひげ……」
床「ひげて、あんたもう剃るとこおまへんで」
熊「そうだっしやろ、もうヒリヒリしてますねん」
床「何ぞ御用だっか」
熊「一服させてもらいましたら」
床「さよか、ほたらどうぞ一服しなはれ」
熊「へえごめんやす。(キセルを構えて)瀬をーはやみ」
床「また始まったがな。いえ、朝から来てはあんなこと言うてまんね。……あらちょっと
 ここがいかれてますねんなあ」
熊「何かしやがんね。気違いあつかいや」
 ぼやいてるところへ、飛び込んで来ましたのが五十前後、棟梁風の身なりをした男、
棟「親方、ちょっと急ぐのやが。あ、つかえてるなあ……困ったな。いや母屋の用事で大
 急ぎで走らんならんねん。ああ、虎はん、えらいすまんけど、ちょっとヒゲだけやねん、
 先にやらしとおくなはれ。……万さん、あんたも来てなはったか。今言うてるわけやね
 ん。すんまへんけどちょっと、ヒゲだけ、先に頼んまっさ。おおきに。……あの、そっ
 ちゃの大将、見ず知らずのお方にこんなことを言いまして申しわけおまへんが、ヒゲだ
 けだんね、ふリ替わってもらえまへんやろか」
熊「へえ、どうぞどうぞ、なんぼでも先ィやらとおくなはれ。私は剃るとこも何もおまへん。
 ……この辺から血が出てるぐらいだっさかい」
棟「さよか、こら良えぐあいやった。そんなら親方、一番に頼むで」
床「よっしや、そこへすわって。(と、剃刀を砥ぎながら)えらい急ぐのやな」
棟「うむ、母屋の用事でな」
床「母屋といえば、向こうのお嬢さん、どんなぐあいや」
棟「かわいそうに、今日明日やと」
床「うーん。……気の毒になあ。ニ十町界隈にないという小町娘や、親御さんが大変やろ
 なあ」
棟「気の毒で見てられん。眼も真ッ赤に泣きはらかしてしもうてな」
床「そうやろ、金のあるお家にはまた、金で片づかん心配ごとができるもんや。けど、あ
 のお人は達者なように見えてたけど、なんでまたそんな病気に……」
棟「さあ、それが今時ありそうもない話で、私も聞いてびっくりしたんやが。なんでも二
 十二、三日前に下寺町にお茶の会があっての帰り、お供の者がいっへん高津さんへお参
 りしましょうと、気の進まん人をせき立ててお参りに行た。ま、これが因果や。ご参詣
 を済ませて絵馬堂の茶店で一服したら、そこに先から休んでたのが、どこのお方かわか
 らんが、役者にもないようなきれいな若旦那やったそうな。おぽこい人でも年ごろ、き
 れいなお人やと見惚れてたのをお付きの連中は知らんがな、さあ帰リまひょ、もう去に
 ましょ、と立ってしもうたが、やっぱりあとに気が残ってたんや、緋塩瀬の茶袱紗が忘
 れてあった。またその若旦那が親切な人で、これ、あんたはんのと違いますか、と持っ
 て来て手から手へ渡された時には、思わず体がブルブルッと慄えたそうな。あんまり名
 残が惜しいさかい、また茶店へ戻って来て、料紙を出させ、サラサラと歌を書いて渡し
 て帰った。その歌の文句が百人一首の、瀬をはやみ岩にせかるる滝川の……というやつ
 や。ところが戻って来て床に就いたまま頭が上がらん。お医者に診せてもわからん。そ
 のうちに病はだんだん重うなる。さるご名医に診てもらうと、これは医者や薬では治ら
 ん。お医者さんでも有馬の湯でもというのはこの病や。なんぞ思い詰めてなはる事があ
 るに違いない。ところが今度はその思いごとというのを誰が聞いてもおっしゃらん。河
 内の狭山へ、小さい時お乳を上げた乳母が嫁入りしてる、それを引っぱってきて、なだ
 めたりすかしたりすると、耳のつけ根まで真ッ赤になって、お父つぁんやお母はんに言
 わんといて、知れたら叱られる、実はこうこうこういうわけ……と、ここではじめてよ
 うすが知れた。乳母の口から旦那の耳へ。旦那、一粒種の娘を殺したら大変や、ともか
 く、その若旦那を探さないかん。出入りの者、皆呼んでこいちゅうやっちゃ。大勢集め
 て、お前はあっちへ行け、お前はこっちへ走れ。かわいそうに源助はん、昨日、札幌へ
 行きよったで。わしはまたこれから紀州の係や、和歌山の町中でたずねて知れなんだら
 熊野の浦へ回って鯨に聞いてこいやなんて、もう母屋はひっくリ返るような騒ぎやで」
床「ふーん、えらいこっちゃなあ。(剃刀を砥ぎながら)しかし、そんな話を聞くと、あん
 まり良え男に生まれるのも罪なもんやな」
棟「そうかも知れん。しかしやらはリ御大家は違うわ。われわれやったら、そんな、瀬を
 はやみてな歌、書いてもろうたかて何のことやわからんが、そこらはやっはり違うたも
 んや言うてなあ」
床「なるほど、そらそうやなあ」
熊「………………」(キセルを構えたままの能五郎、感動で声が出ず、手がワナワナと慄えだすと、
 いきなり相手の胸ぐらをつかまえる)
棟「これ、何をしなはんね。急に人の胸ぐらつかまえて」
熊「わあー」
棟「何という声を出すねん、痛い」
能 「お、おのれに会おうとて、艱難辛苦は如何ばかり、ここで会うたはうどんげの、親の仇
  尋常に勝負、勝負」
棟「そら何を言うねん、この人。苦しいがな、放さんかい」
能「放してたまるかい。くそたれめ、そ、その歌書いてもろうたんは、わしとこの本家の若旦那や」
棟(ええっ。……こら良えとこで会うたぞ(と、こちら相手の胸ぐらをとる)。おのれに会
 おとて艱難辛苦…:」
熊「同じように言うな。さあ、俺とこの本家へ来い」
棟「何かしやがんね、うちの母家へ来い」
熊「何を、おのれを連れて帰んだら借家五軒と三百円」
棟「そら何のこっちや」
 互いにもみ合うはずみに、体がさわって、大きな花瓶が前の鏡にガチャン、花瓶も鏡も
ガラガラガラガッチャン。
床「待った待った、二人とも落ち着け。今聞いてたら、お互いに尋ねる相手が見つかって、
 こんなめでたい事はないのやないか。それに喧嘩なんかして、この割れた鏡はどないし
 てくれるんじや」
熊「心配するない、そんなもん。崇徳院さんの下の句や」
床「崇徳院さんの下の句とは」


熊「割れても末に買わんとぞ思う」

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